■『プロゴルファー猿』ミスターX

 藤子不二雄Aさんによる『プロゴルファー猿』(小学館)には、最大の謎とも言える人物がいる。それが黒幕であるミスターXだ。主人公の猿こと猿谷猿丸のゴルフの腕に目を付け、自らの組織に引き入れるために次々と影のプロゴルファーたちを刺客として送り込む存在だが、まず驚いてしまうのはその容姿だろう。帽子に覆面にサングラス……体格から男性ということが分かるくらいで、素性が推測できるような要素はほぼない。その徹底した変装からは、素顔を絶対に見せないという意思が伝わる。

 ミスターXのサングラスは真っ黒なので、その奥にあるはずの目はまったく見えない。そのため、「実は優しそうなキャラでは?」という想像もできないのだ。あまりにも謎が多すぎるので、「ミスターXは猿の父親ではないのか?」という憶測も飛び交ったほど。他にも「猿の身近にいる人物なのでは?」という声もあるが、正体は結局最後まで謎のままだった。

 サングラスをかけたキャラクターはたくさんいるが、ここまで徹底して自らの正体を明かさないのは珍しい。

 

 サングラスを付けている悪役キャラは数多いが、素顔を一切見せないキャラクターはかなりレアと言える。見えないからこそ知りたくなる、というのが人情なので、おのずとそうしたキャラクターは目に付きやすくなる。謎は謎のまま残っていてほしい気もするが、いつか何かの拍子に素顔を明かす日が来るのか? という観点で注目して見てみるのも面白い。

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