2023年4月14日、劇場版最新作『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』が公開。18日間で興行収入79.7億円、557万人を動員し、シリーズ最大となる興行収入100億円が視野に入る好調ぶりを見せている。
今作のキーパーソンである灰原哀は、見た目は子どもだが江戸川コナンと同じくAPTX4869によって体が小さくなってしまった18歳の女性。かつては天才科学者“シェリー”として黒の組織に所属していた。
子どもであることを利用して捜査に首をつっこんだりと、子どもの体を最大限に利用するコナンとは対照的に、灰原はいつも子どもらしくないほど冷静沈着。しかしコナンや少年探偵団のメンバーらに対して信頼や愛着はあるようで、たびたび皆のピンチを救う活躍を見せる。活躍しても決して成果をひけらかさないところも、彼女の人気の理由だろう。特にコナン(新一)に対するサポートは、あまりの健気さが読者の胸を打つ。
今回は、ツンデレな灰原の健気さが光るエピソードを紹介したい。
■変装してまでコナンに協力
まずは、コミックス25巻から26巻にわたって描かれた「命がけの復活」シリーズ。毛利蘭がコナンの正体に勘づいたと感じた灰原は、コナンにある提案をする。それは、研究中の解毒薬の試作品を使って一時的にコナンを元の姿に戻すというものだった。
もちろんこのとき、コナンがいなくなっていたら怪しまれるため、灰原がコナンの衣装を身にまとい、コナンとして変装して過ごしていた。おかげで蘭はコナンと新一が同一人物ではないかという疑念を払拭できたのだった。
いくら小学1年生で男女の体格があまり変わらないからと言って、変装して他人として過ごすのはかなり骨が折れることだろう。コナンのためにここまでした理由について、灰原は正体がバレたら火の粉が飛んでくるかもしれないと言っていたが、どうもそれだけではないように感じた。それはこの前の事件でコナンが探偵団をかばって重傷を負っていたからか、それとも……。
続いては、29巻に収録されている「謎めいた乗客」。この回は『コナン』のキーパーソンである赤井秀一が初登場した事件でもある。
この回ではスキーに出かけるために一行が乗っていたバスがジャックされるところから物語が始まる。コナンら少年探偵団の活躍で犯人グループを全員無事に確保することには成功したが、その後バスの急停車の衝撃で、犯人らがしかけていた爆弾の起爆スイッチが入ってしまう。
灰原はそのようなピンチの中でも、乗客の中に黒の組織の一員がいるのではないかと疑う。そこで、事情聴取でその人物と顔を合わせるのを避けるため、そして自分が死ぬことで組織と周囲の人間の接点をなくし、彼らに危害が及ばないようにするため、あえて1人で爆発寸前のバスの中に残るのだった。
周囲の人間を守るために自分の命を捨てようとする姿は、健気という言葉では表せられないほどの捨て身の行動だ。もちろんそんな行為をコナンが許すはずもなく、爆発のタイミングギリギリに灰原を救いに行き、なんとか2人の命は助かるのだった。
バスに1人残っていた灰原の「組織を抜けた時から、私の居場所なんてどこにもない事はわかってたのに…」というモノローグがなんともせつない。彼女はいつも心に悲しみを抱いていたということが感じられたが、これ以降灰原は死を意識するのではなく、自分の運命に立ち向かおうとする姿が多くみられるようになる。ターニングポイントとなる名エピソードだった。