■あらためてシーマの行動を振り返ると「生存する」未来もあった?
最後に、本編での行動をシーマの視点から振り返ってみよう。裏切りはしたものの、実はシーマの行動は一貫性があり、むしろ真っ当と言える。デラーズ・フリートに参加したフリをして連邦軍と内通し、コロニー落としを阻止しようとしていただけなのだ。
最終的にコウに殺害されるが、これもコウの独断であり、シーマにとってはいい迷惑。というのも、実際に連邦軍からはシーマ艦隊への攻撃禁止命令が出ているため、コウが命令を無視しているのだ。
シーマも呆れたのか「あんたはどっちの味方だい!」と叫んでいる。たしかにバニングの仇だが、戦時下である以上はお互い様だろう。こう考えると本当にシーマが死ななければいけなかったのか、疑問が残るのではないだろうか。
なお夏元雅人氏による漫画『機動戦士ガンダム0083 REBELLION』では、なんとシーマは生存している。エフェメラ・ハントという偽名を使い、木星船団公社として木星へと向かった。個人的にはこちらが正史であってほしいと思う。
なお「エフェメラ」はギリシャ語で「一日しか生きられない弱きもの」を意味し、転じて「蜉蝣」を指す。
命令だったとはいえ、シーマが一年戦争で虐殺した罪が消えることはない。だが、シーマの経歴や感情をひもとくと、一般的な良心を持つ「普通の人間」だったことがうかがい知れる。故郷を失い、尽くしたジオンから切り捨てられ、友軍から私怨によって殺される……。あまりにも悲しい物語ではないだろうか。
漫画『機動戦士ガンダム0083 REBELLION』はOVAの話は完結し、オリジナルのストーリーを展開している。パラレル的な作品ではあるが、それでもエフェメラが良き人生を送れるよう願うファンも多いだろう。