1991年から1992年にかけて制作されたOVA『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』。テレビ放送されたアニメ『機動戦士ガンダム』と『機動戦士Zガンダム』の間を描いており、高い評価を得ている人気作品だ。
本作のヒロインといえばアナハイム・エレクトロニクス社の社員、ニナ・パープルトン。しかし、作中での行動(奇行)が原因で視聴者からの評判は高くない。むしろ、デラーズ・フリートに参加した元ジオン軍将校のシーマ・ガラハウを本作のヒロイン的な視点でたのしむというファンも中にはいるのではないだろうか。
そこで今回は、シーマについて彼女の経歴をもとに振り返ってみよう。シーマの魅力が伝われば幸いだ。
■作中では粗暴な裏切り者という印象が強いシーマ
まずは本編中でシーマがどのような行動をとったのか、あらためて確認したい。シーマは、エギーユ・デラーズ率いるデラーズ・フリートの「星の屑作戦」に艦隊とともに途中から参加する。
初登場の際は、宇宙に帰還したばかりのガトーが乗る艦に自身の戦艦をわざとぶつけそうになるなど、乱暴な印象だった。シーマ艦隊の戦艦リリー・マルレーンのクルーも同様で、アウトローや荒くれ者といった言葉がピッタリだ。
デラーズ・フリートとして活動しつつ連邦軍に内通しており、のちにデラーズを殺害して、連邦軍に寝返る。
また、シーマがデラーズ・フリートに参加したばかりの頃に、主人公コウ・ウラキの上官であるサウス・バニングを戦闘の末、殺害している。この出来事はコウに復讐の念を植え付けた。
シーマは、最終決戦にてガンダム試作3号機デンドロビウムと戦い、メガ・ビーム砲の砲身で串刺しにされ零距離から砲撃され、MSもろとも爆散し、死亡した。
このように作中では裏切り者としての側面が強く、声優・真柴摩利さんのによるドスの聞いた声もあって恐ろしいキャラとしての印象があるが、ドラマCD「宇宙の蜉蝣(かげろう)」やピクチャードラマ「宇宙の蜉蝣2」では彼女の意外な過去やトラウマが描かれている。
■一年戦争時代は過酷な任務を遂行していた
シーマ艦隊は一年戦争時代、キシリア・ザビ少将配下の海兵隊だった。おもな任務は虐殺などの過酷な汚れ仕事。
一年戦争初期におこなわれた歴史的な作戦・ブリティッシュ作戦でシーマ艦隊は、コロニーに毒ガスを注入し、住人を毒殺した。毒ガスの使用だけでも咎められる作戦であるにもかかわらず、それを密閉空間であるコロニーに使用するという非人道的な作戦だ。
しかし、シーマはこれを毒ガスだとは知らなかった。「宇宙の蜉蝣」では自らの行いに絶望し「私は、知らなかった……! 毒ガスだなんて知らなかったんだよぉ!!」という悲痛な叫びをあげている。なお、この出来事がシーマのトラウマとなり悪夢を見るようになる。本編では語られていないが、シーマの嫌いなことは「眠ること」で、ドラマCDでは悪夢にうなされる彼女の意外な姿を知ることができる。
さらに、一年戦争でジオン軍が敗北したあと、残存兵にはアクシズに逃亡するか反抗を続けるかを選択できた。しかし、シーマ艦隊は「大量虐殺などでジオンの栄光を汚した」として、アクシズ行きは許可されなかった。ジオン本国から直接下されていた指令・命令も「下していない」「戦死したキシリアの独断」と処理され、完全に切り捨てられている。
故郷のコロニーも戦時下でなくなっており、シーマ艦隊は帰るところを失い、宇宙海賊に身をやつす。このような仕打ちを受ければ、人間不信になったり、ジオンを憎んだりするのも当然ではないか。虐殺の罪は消えないが、シーマその人を憎むことは難しい。