作品のなかで主人公たちの壁として立ちはだかる“強敵”たち。圧倒的な実力で読者や視聴者までも絶望の淵に立たせる彼らだが、ときとして作品の“インフレ”の波に巻き込まれ、思わぬ弱体化を果たしてしまうことも。いつのまにかその高い実力がかすんでしまった、どこか悲しいキャラクターたちについて見ていこう。
■蘇るもまさかの瞬殺…あまりにもあっけない宇宙の帝王『ドラゴンボール』メカフリーザ
1984年より『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載され、今もなお続編が作成され続けている鳥山明氏の人気作品『ドラゴンボール』。
作中ではさまざまな“強敵”が登場するが、なかでも読者人気が非常に高い敵役といえば、“宇宙の帝王”と呼ばれるフリーザであろう。
フリーザはドラゴンボールを手に入れるためナメック星に侵攻し、主人公・孫悟空たちと激突した。複数の戦闘形態に姿を変え、その圧倒的な実力で仲間たちを殺害し、結果的に悟空が“超サイヤ人”に覚醒するきっかけにもなったキャラクターだ。
彼は悟空に敗北したのちナメック星の崩壊に巻き込まれて消滅した……と思われていたのだが、実はかろうじて生存しており、父であるコルド大王によって救出されていた。
それだけでも驚きなのだが、なんと彼は欠損した肉体をメカで補強し、復讐のため地球へと侵攻を開始する。フリーザだけならまだしも、コルド大王や兵士たちまでも地球に辿り着いた描写に、読者はおおいに戦慄したことだろう。
再び地球を舞台にした激戦が始まる……と思われたのも束の間、来襲したフリーザ軍に予想外の人物が立ちはだかった。それがなんと、ここで初登場したトランクスだ。引き連れてきた部下は文字通り“瞬殺”され、フリーザは引きつれてきた部下共々、剣でバラバラに刻まれエネルギー波で消滅されるという、あまりにもあっけない最期を遂げてしまう。
いわば、トランクスの高い実力を示すための“噛ませ犬”にされるという、なんとも不憫な死に様を見せてしまった“宇宙の帝王”……。高い人気からその後もたびたび出番が設けられているものの、作品のインフレの波をもろに受けてしまった強敵キャラクターの一人だろう。
■“正々堂々”を重んじる魔王軍百獣魔団の団長…『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』クロコダイン
1989年より『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された、監修:堀井雄二氏、原作:三条陸氏、作画:稲田浩司氏による『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』は、国民的人気RPG『ドラゴンクエスト』の世界観を踏襲した漫画作品である。
作中で主人公・ダイらの前にたびたび姿を現し、激闘を繰り広げたのが、魔王軍百獣魔団の団長であるクロコダインだ。
リザードマンの男性で、見た目に反さないパワーファイター。単行本に書かれている“ステータス”も、ちから、たいりょく、攻撃力といった値が軒並み飛び抜けており、得物である斧を片手に立ちはだかる。
登場当初はその圧倒的なパワーを活かし、ダイだけでなく仲間のポップやマァムをまとめて相手にし、互角以上の戦いを繰り広げた。ダイたちの連携の前に敗北を喫するものの、それからも幾度となく作中に登場している。
魔王軍から寝返ったあとはダイたちと共闘し、数多くの敵を相手取っていくのだが、徐々に周囲のキャラクターとの実力差が表れ始め、やがて“相手の技を喰らう役”という、どこか噛ませ犬的な立ち回りが多くなってきてしまう。
しかし、作者の三条陸氏はこれについて「クロコダイン以外が喰らうと死んでしまうから」と発言しており、クロコダインの圧倒的なタフさがあってこその描写であったことが明らかとなった。
その後も相手の大技を体を張って受け止め、ときには新たな必殺技で勝利をもぎ取るなど、終始、大立ち回りで作品を盛り上げてくれたクロコダイン。その独特の存在感から、いまだファンの多いキャラクターである。