■浅草氏の繊細な魅力を引き出した『映像研には手を出すな!』伊藤沙莉
近年ドラマやCMに引っ張りだこの伊藤沙莉は、特徴のあるハスキーボイスで知られている。その声が見事にマッチしたのが、湯浅政明監督が手がけたテレビアニメ『映像研には手を出すな!』の、“浅草氏”こと浅草みどり役。
伊藤はテレビアニメの声優初挑戦、さらに大童澄人氏による原作漫画には根強いファンが多いことから、オファーを受けはしたものの不安が大きかったという。
しかし実際のところは、そんな不安は微塵も感じさせない堂々たる浅草氏っぷりを披露した。空想の世界でどこまでも自由に思考を遊ばせる姿、一方リアルの人間関係で見せる憶病さや縮こまった姿、不安をごまかすためであろう独特のべらんめえ口調、おそらくすべてが原作ファンのイメージに近いのではないだろうか。
一見、型にはまらない自由人のようでいて、実は繊細で複雑な内面を持つ浅草氏の魅力が、彼女の声からよく伝わってくる。
■今や両さんの声といえばこの人『こち亀』ラサール石井
1976年から連載が始まった、秋元治氏の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。長く親しまれてきた作品だけに、1996年からのアニメ化に際して、“両さん”こと両津勘吉の声をラサール石井が演じることについては賛否両論耳にした。
しかしアニメが放送されていた8年間での平均視聴率は17%と高く、たび重なる舞台化でもラサール石井が両さん役を演じていたところをみると、世に広く受け入れられている印象だ。
実際、両さんのとにかく無茶苦茶なところやダイナミックさ、また『こち亀』特有の疾走感を表現するのに、あの声質と勢いのある演技はよく合っているのではないかと思う。今や多くの国民にとって、両さんの声=ラサール石井の声だろう。それこそ、適役だったという証ではないだろうか。
以上、声優としての俳優たちの名演技をいくつか紹介した。俳優は声優として、声優も俳優として活躍する場が増えてきた昨今では、いろんな人のいろんな表現を、職業の垣根を超えて楽しむことができる。なんとも贅沢な時代になったものだ。