『君の名は。』神木隆之介&上白石萌音『青い文学シリーズ』堺雅人も…“声優”としても魅せた俳優たちの名演技の画像
『君の名は。』公式ビジュアルガイド(KADOKAWA)書影

 普段は表舞台で活躍している俳優たちが、アニメの主要キャラの声優として抜擢される機会は多い。彼らの起用はアニメファンの間で賛否両論あるものの、素晴らしい演技で大絶賛されることも多々ある。今回は、そんな俳優たちが“声優”として魅せた名演技を紹介したいと思う。

■瀧と三葉の息遣いまで感じさせる『君の名は。』神木隆之介&上白石萌音

 2016年に公開された新海誠監督『君の名は。』で、ダブル主演を務めた神木隆之介上白石萌音。神木はこれ以前にもスタジオジブリ作品をはじめとした数多くの声優出演作があり、その実力は折り紙付きだ。一方の上白石は当時まだキャリアは浅かったものの、オーディション時、その声質の美しさに新海監督が一発で惚れ込んだという。

 本作では、神木演じる立花瀧と上白石演じる宮水三葉がときどき入れ替わってしまうため、ともに一人二役の演技が求められた。しかし演じ手が変わっても瀧は瀧、三葉は三葉のまま、二人ともまったく違和感なく演じ切っている。そして物語がシリアスな方向に舵を切った終盤では、それぞれの心の揺れや息遣いまで感じるような繊細な表現で、観客の心を奪った。

 大切な人の存在を忘れてしまう恐怖や寂しさ、必死にそれに抗おうとする思い。誰のなかにでもあるこの思いを、神木と上白石は丁寧に拾い上げ、声に乗せて伝えてくれた。だからこそ人々は強い共感を呼び起こされ、涙したのだろう。

■すずを血の通った一人の人間にした『この世界の片隅に』のん

 NHK連続テレビ小説あまちゃん』で知られる女優・のん(能年玲奈)もまた、長編アニメ映画の主人公を演じ、高い評価を得た。それが、2016年に公開された片渕須直監督『この世界の片隅に』の、北條(旧姓:浦野)すず役だ。

 戦時下に18歳で広島の軍港町・呉に嫁いだすずは、絵を描くことや空想することが好きな、ちょっとぼんやりしたところのある女性だ。しかし、暮らしが貧しくても、小姑に意地悪をされても、肩肘張らずにふわりと乗り越える芯の強さを持っている。のんの飾らない声質や語り口は、そんなすずの姿とぴったり重なる。素朴ななかに、優しさや強さが滲み出ていた演技だった。

 戦時中を描いた作品は、どうしても戦争のインパクトに引きずられがちだ。しかし本作では、のんの声を通してすずが血の通った一人の人間として近くに感じられる。それによって本作は“戦争の物語”ではなく、“戦争の時代を生きた一人の人間の物語”として完成したのではないかと思う。

■日本文学界に残る言葉に命を吹き込む『青い文学シリーズ』堺雅人

堺雅人」と聞くと反射的に「倍返しだ!」と言いたくなるが、堺はそのほかにも数多くの代表作を持つ実力派俳優だ。声優としての活躍も多く、今石洋之監督の映画『プロメア』では、普段の冷静な顔のうちに激情や狂気を抱える役を熱演。そのあまりの表現力に、堺の演技に合わせてキャラクターの表情を描き直すほどだったという。

 そんな堺の声優としての演技でとくに印象深いのが、2009年に太宰治生誕100周年を記念して放送された『青い文学シリーズ』だ。日本を代表する文学作品を、『DEATH NOTE』の小畑健氏や『BLEACH』の久保帯人氏など人気漫画家のキャラクター原案でアニメ化したオムニバス作品で、堺はすべての作品で主演を務めている。

 堺の知的で穏やかな声で演じられる文学作品はどれも奥深いが、なかでも太宰治の『人間失格』は圧巻だ。「恥の多い生涯を送って来ました。」というあの有名な出だしを訥々と語ったかと思うと、体がねじ切れるほどに絞り出される「生まれて、すみません」。思わず鳥肌が立つ演技には、文学ファンもアニメファンも満足すること請け合いだ。

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