グルメ漫画にも食べることをメインにしたもの、あるいは調理に重点を置いたものなどいろいろなタイプがあるが、いずれも共通しているのは、見ているだけで食べたくなる料理がたくさん登場すること。
グルメ漫画に登場する料理を美味しく見せている秘密のひとつは「これで美味しくならないわけがない」という、食材に対する知識や説得力のある調理法が描写されていることだ。ただ単に料理を作るのではなく、その過程を詳しく解説するからこそ、誰が見ても美味しいに違いないと思える作品となる。
食材や料理に精通したキャラクターを通して、自然に食にまつわる知識を得ることにもなるのが料理漫画の醍醐味。そして、そんな料理漫画で得た小ネタを、誰かと食事をする時に話すことで「そうなんだ!」「知らなかった」と話題になることもあるだろう。そこで今回は、知って得する、グルメ漫画から学ぶ食のうんちくを紹介していきたい。
■『美味しんぼ』タイのタイ
グルメ漫画を語る上では、原作:雁屋哲氏、作画:花咲アキラ氏による『美味しんぼ』(小学館)を外すことはできない。料理だけでなく、食器などを含めた大きな意味での「食文化」についてのうんちくも登場するから、思わず「へぇ」とうなずいてしまうこともしばしばだった。
その代表例のひとつが、「タイのタイ」だ。山岡が正月に大原社主の家に招かれて、めでたい席にふさわしいネタとして披露した。おせち料理に入っている鯛のヒレの中から身をほぐして骨を取り出すと、それがまるで小さな鯛のように見える。ただでさえめでたい鯛の中にさらに鯛が入っているのだから、二重にめでたいというわけだ。この骨は小さいので、財布などに入れて持ち歩くとお守りにもなるのだという。
このエピソードを読んだ当時、筆者も鯛が食卓に出た時に同じように身をほぐして「タイのタイ」を探してみた。すると、漫画で見たものと同じ形の骨が出てきて、いたく感動したのを覚えている。
他にも、昆布に空いた丸い穴について、ほとんどの人が知らなかったであろう豆知識も紹介されている。海原雄山の料亭「美食倶楽部」で下働きをしている板前が、昆布に穴が空いているのを見つけて虫に食われたと勘違いしてしまい、自分に責任を感じてしまうのだが、それはウニが食べた跡だったということが明かされる。これには「ウニって昆布を食べてこんなにきれいに穴を開けるんだ」と感心したものである。
■『将太の寿司』わさびのおろし方
寺沢大介氏による『将太の寿司』(講談社)にも誰もが「なるほど」と思う、食にまつわる雑学が出てくる。それがわさびのおろし方だ。一般家庭では天然のわさびなど見る機会もなければ、口にすることもないだろう。チューブや袋に入ったわさびの方が馴染み深いはずだ。しかし、ちゃんとした寿司屋では天然のわさびを使う店も多く、おろし方で味の違いが出るのだ。
それを教えてくれたのが、小松わさび園の美那子である。美那子はわさびに愛情を込めて育てていたので、そのおろし方にもこだわりがあった。将太はわさびをおろし金に当てて真っ直ぐおろしていたが、それに対して美那子は、それではわさびの本来の辛味は出ないことを指摘する。そして、「の」の字でおろすことを勧め、将太がその通りやってみると辛味が全然違った。
その理由は、わさびの細胞が空気によく触れることで辛味が増すというもの。しっかりとした根拠が感じられて説得力があったので、これも試してみたいと思ったが……いかんせん本物のわさびをおろす機会がない。これは、寿司屋に行った時に語るうんちくとして取っておくことにしよう。ちなみにわさびのおろし方に関するエピソードは『美味しんぼ』にも複数回登場しているので、気になった人は探してみてほしい。