■まるでヤンキー!? 『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』エリス・ボレアス・グレイラット
理不尽な孫の手氏の『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』は、小説投稿サイト「小説家になろう」で連載されていたライトノベル。無職で引きこもりの主人公が、ルーデウス・グレイラットとして異世界に転生し、前世の反省を活かしてさまざまな問題を解決していく異世界転生作品だ。
原作が連載されていたのは、2012年から2015年にかけて。その時期だけで考えれば暴力ヒロイン全盛期の作品でもあるが、本作は2021年にアニメ化され、また2023年7月からは2期の放送も予定されている。そのなかでひと際異彩を放つ暴力ヒロインが、上級貴族の令嬢であるエリス・ボレアス・グレイラットだ。
まずエリスは手の早さが尋常じゃない。アニメでは、なんと初登場から最初の一発までおよそ30秒。流石の転生者も何が起こったか分からず、目が点になるスピードだ。
さらに、暴力に訴えるまでのハードルも相当低い。彼女は自身の家庭教師となったルーデウスが年下であることに文句をつけ、それに対しルーデウスが反論しかけた瞬間、平手打ちをかましている。ちなみにここまででルーデウスはエリスに対し、自己紹介も含めて三言しか発していない……。
原作ではもう少し言葉のやりとりがあったが、それにしたって唐突だ。その後、ルーデウスが「なんで殴るんですか?」と問えば「年下の癖に生意気だからよ!」と、まるでヤンキーのようだ……。
そのうえ彼女は、力の加減をする気もゼロである。ルーデウスが人に殴られる痛みを教えようと頬に平手を返すなり、顔面をグーパン。ダウンを取ってマウントポジションからの鉄拳打ち下ろし! もちろんどの攻撃も容赦なしの全力だ。
そんなエリスだが、実はかなり人気のあるヒロインである。このあとルーデウスとエリスは師弟として5年以上の歳月を一緒に過ごすことになるのだが、その過程でエリスの“理不尽な暴力”は“信念と正義を貫く力”に変わっていく。その変化と成長も魅力のひとつなのだろう。
ルーデウスに対する気持ちも、最悪の第一印象はさておき、師としての尊敬から仲間としての絆、そして恋心へと変わり、だんだんと複雑になっていく。物語には“なんとなく目を惹くキャラクター”が登場することがあるが、彼女はまさにそれだと思う。表情がコロコロ変わるのもあって、終始見ていて飽きない素晴らしいヒロインだ。
暴力ヒロインが全盛を極めていたのは、“ツンデレ”の概念が流行した影響もある2000年代後半~2010年代前半頃だろうか。『とらドラ!』の逢坂大河、『とある魔術の禁書目録』の御坂美琴、『WORKING!!』の伊波まひる、『ニセコイ』の桐崎千棘など、数多くの“暴力ヒロイン”が登場した。
2010年代後半に入ってからは全盛期ほどの盛り上がりはないにせよ、紹介した暴力ヒロインたちも含め、いまだ健在の属性だ。強気なヒロインが、ふとした瞬間にかわいい一面を見せる……そのギャップにいつの時代も男性ファンはドキッとさせられてしまうものである。
今後、ひょっとしたら“暴力を振るうヒロイン”は今よりも少なくなってしまうかもしれない。しかし筆者としては、やはり「過剰なツンがデレる一瞬の尊さは永遠である!」と、声を大にして叫んでおきたい。