■江戸川コナンに対する灰原の複雑な気持ち
あらためて青山氏の印象について聞くと、「これまでたくさんの事件を生み出していらっしゃいま
すが、まだまだアイディアが枯れない方だなと、お会いするたびに思います」と櫻井氏が語ってくれた。
「とても穏やかな方ですよ。アイディアが豊富で、そのどれもが非常に細やかで。今回のミステリを解く伏線の1つも、実は先生からのアイディアです」
今作では、組織に追われる灰原の心情とともに、これまでにも少し描かれていたコナン(=工藤新一)への気持ちも掘り下げて描かれる。これについて櫻井氏は「かなり気をつけて書きました」と話す。
「灰原に関しては、『パシフィック・ブイ』の“ある画期的なシステム”の開発者・直美との交流を丁寧に書きました。劇中のセリフに、『子どもの言葉や行動で人生は変わることもある』というのがあるのですが、このセリフに込めた想いは大きいです。灰原の知られざる一面を描くためには直美の物語も必要で、直美のキャラクター造形、つまりはバックボーンが重要でした。直美がシステムを開発するに至った経緯や、直美の人生を考えたときに、ごく自然にこのセリフを思いついたという感じです。その一方で、コナンと灰原の関係も描かれますが、コナンに対する灰原の複雑な気持ちは青山先生が担当しました。今回はクライマックスで思わぬシーンも用意されています。そのときの毛利蘭の関わり方にはどんなオマージュが込められているのか、注目していただきたいですね」
■「APTX4869」を飲んで幼児化した新一と灰原の“同志感”
黒ずくめの組織の真相に一歩近づく本作だが、あらためて櫻井氏に本作の楽しみ方を聞いた。
「最初はあまり考えないでアクションやミステリを堪能していただきたいと思います。もし、もっと深いところで作品を観たいという方は、ぜひコナンと灰原の関係、コナンが灰原をどうやって守るのか、そして、『APTX4869』という同じ薬を飲んで幼児化してしまった二人の“同志感”を観ていただきたいです。で、もっともっと深く考察したいという方もいらっしゃると思うのですが(笑)、そういう方は、黒ずくめの組織のメンバーそれぞれの動きやセリフから、組織がいまどういう現状なのか。実はどういう目的を持っているのかっていうのを想像しながらこの映画を楽しんでほしいなと思います」
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PROFILE
さくらい たけはる
1970年生まれ、東京都出身。1993年より東宝株式会社に入社。在職中に第一回読売テレビシナリオ大賞を受賞。退職後は脚本家に転身。ドラマ『相棒』、『科捜研の女』シリーズなど、ミステリ作品を中心に活躍。劇場版『名探偵コナン』の脚本は、今作のほか、『名探偵コナン 絶海の探偵』(2013年)、『名探偵コナン 業火の向日葵』(2015年)、『名探偵コナン 純黒の悪夢』(2016年)、『名探偵コナン ゼロの執行人』(2018年)、『名探偵コナン 緋色の弾丸』(2021年)を担当。
INFORMATION
『名探偵コナン 黒鉄の魚影』
2023年4月14日(金)全国東宝系にて公開
https://www.conan-movie.jp
原作:青山剛昌「名探偵コナン」(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:立川 譲
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
声の出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、林原めぐみ ほか
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
©2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
STORY
東京・八丈島近海に建設された、世界中の警察が持つ防犯カメラを繋ぐための海洋施設『パシフィック・ブイ』。本格稼働に向けて、ヨーロッパの警察組織・ユーロポールが管轄するネットワークと接続するため、世界各国のエンジニアが集結。そこでは顔認証システムを応用した、とある新技術のテストも進められていた―。一方、園子の招待で八丈島にホエールウォッチングに来ていたコナンたち少年探偵団。するとコナンのもとへ沖矢昴(赤井秀一)から、ユーロポールの職員がドイツでジンに殺害された、という一本の電話が。不穏に思ったコナンは『パシフィック・ブイ』の警備に向かっていた黒田兵衛たち警視庁関係者が乗る警備艇に忍び込み、施設内に潜入。すると、システム稼働に向け着々と準備が進められている施設内で、ひとりの女性エンジニアが黒ずくめの組織に誘拐される事件が発生…!さらに、彼女が持っていた、ある情報を記す USB が組織の手に渡ってしまう…。
海中で不気味に唸るスクリュー音。そして八丈島に宿泊していた灰原のもとにも、黒い影が忍び寄り…。決して触れてはいけない玉手箱(ブラックボックス)が開かれたとき、封じ込めた過去がいま、洋上に浮かび上がるーー