「黒ずくめの組織にもドラマがあるということを伝えたかった」脚本家・櫻井武晴が語る劇場版『名探偵コナン』の作り方(1)の画像
©2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会 
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「見た目は子供、頭脳は大人」でお馴染みの国民的マンガ『名探偵コナン』の劇場版アニメ第26作『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』が公開間近だ。櫻井武晴氏は、これまでにも劇場版第17作『名探偵コナン 絶海の探偵(プライベート・アイ)』(2013年)や第20作『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』(2016年)など、劇場版5作品の脚本を手掛けている。ミステリを得意とし、実写ドラマ『科捜研の女』、『相棒』シリーズなどの脚本も手掛ける彼にとって、『名探偵コナン』はどんな存在なのか。(全3回中の1回)

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■灰原をめぐるサスペンスを作るために、発案した新システム


 毎年春に公開される青山剛昌原作の劇場版アニメ『名探偵コナン』は、映画ならではの激しいアクションとドラマチックな展開が熱く、昨年公開された『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』はシリーズ歴代最高の興行収入97億円を突破し、大きな記録を作り上げた。期待が高まる4月14日公開の最新作『名探偵コナン 黒鉄の魚影』のキーパーソンは灰原哀。灰原は、江戸川コナン(=工藤新一)が追う宿敵・黒ずくめの組織の元メンバーであるシェリー(宮野志保)。体が幼児化する薬「APTX4869」の開発者であり、自身も薬を飲んで幼児化し組織から逃げ出したた彼女に黒い影が迫りくる。
今作のプロット作りについて、脚本を手掛けた櫻井武晴氏に聞いた。

「劇場版『名探偵コナン』の脚本づくりは、基本的には実写作品のそれと同じです。取材をして、プロットとストーリーを書き、検証して脚本にしたものをもとに、原作の青山剛昌先生や監督・プロデューサー陣の要求を聞いて、新たに取材をして脚本を直していくんです。この間に打ち合わせが何度も入ってくるのですが、毎回、青山先生の自宅でやっています。『黒鉄の魚影』に関しては、2021年の 1月末から始めて春頃に一度書き上げ、その年の後半まで検証と取材を繰り返して作りました」


 舞台は、東京・八丈島。黒ずくめの組織の登場、海洋トリック、灰原哀をメインにした物語の展開を織り交ぜた脚本は、前述した度重なる打ち合わせと、櫻井氏自身が考えついた架空のシステムを取り入れることで描かれていく。

「灰原を中心に黒ずくめの組織を描くということで 、灰原の正体が組織にバレてしまう?というサスペンスかなと。そのときに、世界中の防犯カメラを繋ぐようなシステムを使ったらおもしろいんじゃないかと思ったんです。僕は『科捜研の女』というドラマをずっと書いてきたので法医学的な知識や資料がありましたし、顔認証システムの話もいくつか書いてきた。だから今回は、それらをもとに架空の新システムを作ってしまいました。システムには巨大サーバーと巨大冷却装置が必要だということで海が舞台となりましたが、当時、青山先生が『海を出すなら、八丈島でイルカ!』とおっしゃって。イルカは諸事情でクジラに変更となりましたが(笑)、舞台は八丈島で決まりました」

 

■コナンが灰原を守りながら、灰原に守られているような感覚


 黒ずくめの組織をはじめ、多数の登場人物が出てくるのも本作の特徴だ。キャラクターの描き方にはどんなこだわりがあるのだろうか。

「新一(コナン)より、年齢的にも精神的にも大人な部分があるのが灰原。普段、灰原を書くときは、新一よりも冷静でリアリストに見えるようにして書くのですが、 今回はこれまでの彼女には見られなかった新たな一面が見えるように書こうと思いました。そこで、コナンが灰原を守りながら、灰原に守られているような状態ができるように書けたらなと。それと、灰原は日本人とイギリス人のハーフだという設定を久しぶりに使いました。以前、『純黒の悪夢』を書いたときに、組織の現在の状態と組織の本来の目的を青山先生に聞いたことがあったんです。なぜ『APTX4869』を開発したのかっていうのも含めてね。今回もそこに気をつけて、でもはっきりとは悟られないように執筆しました」

 

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