■「もーーー我慢できん」痺れを切らした陵南・田岡茂一監督
最後に紹介するのは、神奈川県大会予選決勝リーグ最終戦での陵南・田岡茂一監督だ。
対戦した湘北と陵南は両エースの流川と仙道彰の活躍で均衡状態であったが、ここで試合が大きく動いた。後半、まだ残り10分の時点で陵南の主将・魚住純が4ファウルに追い込まれ、一時的にベンチに退くこととなってしまうのだ。
精神的主柱である魚住を欠いた陵南は、湘北の勢いに押されはじめる。“もう待てない。試合に出してほしい”と直訴する魚住だったが、田岡監督は湘北にある不安要素を読み、“もう一度流れが来るからそれまで待て”と、諭し続けた。流れが来たときに魚住がいなければ追いつけないと踏んで、ラスト5分になるまで彼を温存しようとしたのだ。
しかし、湘北はメンバー5人がうまく機能し始め、気づけば点差は13点に……。すると「もーーー我慢できん」と、ついにしびれを切らした田岡監督は、当初の作戦を変更し、残り6分15秒の時点で魚住を投入。“ゴール下の要”としての役割に徹した魚住により、少しずつ流れを引き戻すことに成功した。
“あと1分投入が遅かったら仙道がつぶれ、湘北の勝ちが決まっていたかも……”と、試合を見ていた海南・牧が考察していたが、それほど絶妙なタイミングでの采配であった。
その後、読み通り「ファウル・トラブル」「選手層の薄さ」「湘北・安西監督の不在」「素人・桜木」と、湘北の不安要素が次々と露わになり、陵南は怒涛の追い上げを見せる。
結果的に湘北に敗北する陵南だが、試合後に「敗因はこの私!! 陵南の選手たちは最高のプレイをした!!」と潔く語った田岡監督の姿は、指導者としても素晴らしかった。
どんなスポーツにも言えることだが、実際にプレイしている選手たちと同じく、監督も一緒に戦っている。『SLAM DUNK(スラムダンク)』でも見られた、そんな監督たちの熱い姿もまたリアルで、物語をより魅力的なものにしているのだろう。
ついついプレイヤーたちに注目してしまいがちだが、監督の熱い姿に注目して読み返してみてはいかがだろうか。