■任務遂行に命をかけた忠義の老兵ノリス・パッカード

 最後に紹介するのは『機動戦士ガンダム第08MS小隊』第10話「震える山(前編)」より、ノリス・パッカードだ。サハリン家に仕えるジオン軍将校のノリスは、負傷兵を乗せたザンジバル級機動巡洋艦ケルゲレンの脱出ルート確保のため、市街地戦闘において、その圧倒的なモビルスーツ操縦技術を見せつけた。

 ケルゲレンの脱出ルート確保はほとんど片道切符の任務であり、成功したとしても本隊との合流が困難なことは明白だった。しかし、サハリン家令嬢アイナ・サハリンの「親代わりのノリス」という言葉がノリスの背中を押す。自身が仕えるアイナのために戦うことを、誇り高き武人は決意するのだ。

 その戦いぶりは、鬼神の如く壮絶で圧倒的。グフ・カスタム単独で量産型ガンタンクをあっという間に破壊した。「怯えろ、すくめ、モビルスーツの性能を活かせぬまま死んでゆけ!」のセリフは鬼神ノリス・パッカードにふさわしい名言だ。

 そんなノリスだが、数奇な出会いと共にその最期を迎える。破壊目標である量産型ガンタンク最後の1機を死守しようとする、ガンダムEz8。その死に物狂いの姿を見たノリスは「アイナ様、合流できそうにありません。自分は、死に場所を見つけました」と覚悟を決め、赤色の信号弾(合流出来ない合図)を打った。

 満身創痍のガンダムEz8のパイロット、シロー・アマダは自身を鼓舞させるため、「俺は生きる! 生きて……アイナと添い遂げる!」と叫ぶ。ノリスが最期の戦いに選んだ相手は、自身が仕えるアイナの思い人だったのだ。そのことに気づいたノリスは動揺するが、覚悟を決めた武人は心構えが違った。

「アイナ様の思い人と出会う。おもしろい人生であった。だが、負けん」と言い放つと、ビームサーベルでコックピットを真っ二つにされながらも、3連装ガトリング砲で最後の標的だった量産型ガンタンク破壊を成就したのである。

 忠誠を誓うサハリン家令嬢アイナのため、課せられた任務を全うするため、命を落とす最期まで潔い武人ノリスには心を打たずにはいられない。

 

 強い信念を持ったキャラクターは、老兵といえども主人公を喰ってしまうほどの魅力に溢れている。ガンダム作品が幅広い年齢層に現在も支持され続けているのは、世代ごとに感情移入出来るキャラクターが多数存在するからなのだろう。

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