40年以上続く『ガンダム』シリーズには、多種多様なモビルスーツや兵器が登場する。そして、それらを操るキャラクターたちも十人十色、実にさまざまな生き様を見せてくれるのだ。今回は、そんなガンダムシリーズのキャラクターから「老兵」に焦点を当て、心打たれるエピソードを紹介する。
■若者に希望を託して…『Vガンダム』の老兵たち
最初に紹介するのは『機動戦士Vガンダム』第50話「憎しみが呼ぶ対決」より、宇宙戦艦ジャンヌ・ダルクと同リーンホースJr.の特攻だ。
レジスタンス組織リガ・ミリティアとザンスカール帝国の最終決戦で、地球連邦軍宇宙艦隊の旗艦ジャンヌ・ダルクは、宇宙要塞エンジェル・ハイロゥの敵艦隊に特攻を仕掛ける。ムバラク・スターン司令は被弾したエンジンを切り離さず、ジャンヌ・ダルクごと敵艦隊にぶつける決断をするのである。
「敵の守りに穴を空けるためには、エンジンも武器になります」「少しは子供たちの手助けをせんとな」という彼のセリフには、身を挺して子供たちに希望を託す、強い想いが詰まっている。
また、この回の後半には、リガ・ミリティアの老兵たちも戦艦リーンホースJr.でモドラット艦隊に特攻する。艦がエンジンを損傷すると、技術者ロメロ・マラバルの声で察したかのように老兵たちが一致団結。ジン・ジャハナムの「そろそろ覚悟をするときかな。艦長」や、レオニード・アルモドバルの「まだリーンホースは働けるからな。これからは、老人に任せて欲しいのさ」の言葉は、鳥肌が立つほどかっこいいシーンだ。
このリーンホースJr.の特攻シーンでは、最高のタイミングで岩崎元是の挿入歌『いくつもの愛をかさねて』が流れる。癖は強いが、憎めない、そんなリガ・ミリティアの老兵たちが次々に散っていくシーンは、涙なしには見られない。この記事のために再視聴した筆者が号泣したことは、言うまでもないだろう。
■意地とプライドを見せたジオン軍の老士官ガデム
続いて紹介するのは『機動戦士ガンダム』第3話「敵の補給艦を叩け!」より、ジオン公国軍の老士官ガデムだ。ホワイトベース隊との戦闘で戦力を削がれたシャア・アズナブルは、補給をドズル・ザビに申し出た。その際、補給任務を任されたのが、ガデムである。
補給中にホワイトベース隊に強襲され、自身のパプア補給艦を破壊されたガデム。連邦軍の新型モビルスーツ、ガンダムを索敵すると「あれかぁ連邦軍のつくったモビルスーツってのは」と丸腰の旧型モビルスーツ、ザクIで立ち向かおうとする。制止するシャアを「止めるなッ」と一蹴。補給艦を破壊されたガデムの怒りは収まらなかったのだ。
「にわかづくりの連邦軍のモビルスーツなど一撃で倒してみせるわ」と豪語するや、ショルダータックルで挑んでくるガデムの気迫に、ガンダムに乗るアムロは「ぶ、武器も持たずに?」と動揺を隠せない。
そして、アムロはパイロットとしての経験の少なさから、ビームサーベルを大振りしてしまう。その隙を逃さなかったガデムのザクIは見事、ショルダータックルをガンダムに見舞わせた。このときの「素人め! 間合いが遠いわ」というセリフは、老兵ガデムの名言に相応しいだろう。
とはいえ、相手が悪すぎた。ザクIIのザク・マシンガンですらビクともしない、ガンダムの装甲だ。すぐさま反撃に遭い、ビームサーベルでコックピット部を切られると、ザクIはガデムもろとも爆発した。
全43話の中で、たった1話しか登場しないガデムだが、破壊された補給艦、戦死した部下たち、それらの怒りから、丸腰の旧型モビルスーツでガンダムに戦いを挑む姿は、心打たれる老兵エピソードと言えるだろう。