し烈な戦いが繰り広げられる漫画の中で、登場人物が惜しくも命を落としてしまう展開は珍しくない。しかしそれが主人公の心の支えであるヒロインだったなら、しかもその死がなんの伏線もなく突然訪れたら……。読者である我々は茫然とするほど驚いてしまうものだ。
永井豪氏の『デビルマン』が代表的な例で、主人公・不動明の居候先の娘で同作のヒロインの牧村美樹は物語の後半で、悪魔を恐れる暴徒によって惨殺されてしまう。物語開始当初から登場していた勝気なヒロインが迎えたあまりにも惨たらしい姿は衝撃的であった。本当に怖いのは悪魔ではなく人間だということをこれでもかと見せつけられた作品だ。
このほかにも、突然ヒロインが死んで読者に衝撃を与えた作品は多い。
まずは火星で進化したゴキブリと人類との戦いを描いた『テラフォーマーズ』。1話ではバグズ2号の火星調査の様子が描かれる。
主人公である小町小吉はヒロイン枠である秋田奈々緒らとともに、火星に住むという進化したゴキブリの駆除の任務に向かうのだが、そこで得体の知れない人型の真っ黒なゴキブリに遭遇してしまう。謎の生物をゴキブリとは思わず近づいていく小町と奈々緒だが、次のページの見開きで、急に奈々緒がゴキブリに素手で首を折られて命を落としてしまう。
第1話にしてこの展開、とっさのことで読者は大いに困惑したことだろう。またこのゴキブリのビジュアルがなんとも不気味で、ゴキブリに対する嫌悪感や恐怖は一気に増した。
最近では多くのデスゲームやサバイバル漫画があふれ、第1話でヒロインが亡くなるケースが増えてきたが、『テラフォーマーズ』が後の作品に与えた影響は大きいだろう。なお、実写映画ではこのヒロインは武井咲が演じている。
続いては、CLAMPによる少女漫画『X』を紹介したい。1992年より連載され、現在既刊18巻で休載中となっている同作は、人類を存続させようとする「天の龍」と、人間を滅ぼし地球を守ろうとする「地の龍」の戦いを描いた作品だ。
主人公の司狼神威は天の龍と地の龍のどちらになりたいかの選択を迫られ、幼なじみの桃生封真とその妹である小鳥を守りたいがために、天の龍となることを選択する。
しかしその瞬間、実は神威の対の存在であった封真が地の龍として覚醒し、神威の目の前で小鳥を惨殺してしまう。
ワイヤーに絡まれてはりつけになったヒロイン・小鳥の四肢がバラバラになる様子や、彼女の生首を持って泣き叫ぶ神威の姿はとても少女漫画とは思えないほど残酷であった。ここから物語は、敵味方問わずどんどん命を落としていく過酷なものとなっていく。壮大な物語だけに、いつか物語の完結を見届けたいというのがファンの願いだろう。