■誰も僕を裁けない「キラ・ヤマト」

 最後に紹介するのは、宇宙世紀とは世界線の異なる物語『機動戦士ガンダムSEED』のキラ・ヤマトだ。

 中立国のコロニーで開発されていた地球連合軍のガンダムを強奪しに来たザフト軍に、やむなく応戦する形で地球連合軍の戦艦に搭乗したキラだったが、ザフト軍に幼馴染のアスラン・ザラが所属していることで苦悩する。

 そんな中で、プラント軍の歌姫でありアスランの婚約者、ラクス・クラインが乗る救援ポッドを回収した地球連合軍は、ラクスの命と引き換えに戦闘行為の中止をザフト軍に申し出るのだ。

 理不尽がまかり通ってしまう戦争下という状況への抵抗と、幼馴染のアスランの婚約者を死なせたくないという強い意志から、独断でラクスをザフト軍に返す決断をする。

 無断でMSに乗り捕虜を返還するなど軍法会議ものの大罪だが、軍人でないキラに軍の理屈は通じない。実際、この行動を責めた視聴者はどれほどいただろうか。

『ガンダム』シリーズを見慣れた生粋のガンダムファンであれば、お決まりの勝手に出撃シーンとあって呆れかえってしまうのもよくわかるが、自らが同様の立場になった時にどのような行動をとるか、深く考えさせられるシーンでもある。

 

 戦時中において、個人の独断で軍の所有物を勝手に持ち出すことは、仲間の命を危険にさらし、ひいては戦争の勝敗に関わる重大なリスクもある。決して容認できる行動ではないことは明らかだが、その行動はただ単に軍上層部の命令に従い、目の前の敵を殲滅する殺人マシーンではないことの証明でもある。『ガンダム』の世界で戦うキャラクターたちもそれぞれ感情を持った人間なのだ。

 敢えてツッコミを入れるとするならば、そう簡単に軍の兵器を持ち出せてしまう、軍の管理体制の異常な甘さの方ではないだろうか。

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