■有言実行の頼れる柱『鬼滅の刃』冨岡義勇の太刀筋
最後に『鬼滅の刃』から、鬼殺隊の最上級剣士である水柱・冨岡義勇の戦闘シーンを紹介する。
那田蜘蛛山編のボスとして登場した十二鬼月の1人で下弦の伍・累。姿は子どものように幼いが実力は本物で、見た目に惑わされてガキの鬼と侮った鬼殺隊士の1人を一瞬にしてサイコロステーキ状に切り刻んでしまうほどだ。主人公・炭治郎も禰豆子の助けを借りながら戦いを挑むも、累の前には苦戦を強いられ、敗北寸前まで追い詰められる。
その大ピンチに颯爽と現れたのが義勇だった。駆けつけるやいなや炭治郎に「俺が来るまでよく堪えた」とクールに言い放つと、その言葉通り、水の呼吸を極めた義勇が自ら編み出した拾壱ノ型・凪を繰り出して一瞬で勝負を決めてしまった。義勇の間合いに入った術を全て凪ぎ、無効化してしまう技だ。それまでの炭治郎と累の熱を帯びた戦いから一転し、静寂の中で訪れた決着の瞬間、累の首は音もなく斬り落とされたのだった。炭治郎&禰豆子との戦いで累の強さを存分に印象付けておいて、満を持して現れた義勇がさらにその上を行く強さを見せるという対比構造が非常に巧みで、読者の印象に強く残る名シーンとなったのも当然だ。
今回は、敵キャラクターとの実力差がありすぎて、やられたことにすら気づかせずに勝敗がついた戦闘シーン3つを紹介した。いずれも、勝利した味方キャラクターのカッコよさが際立った戦闘シーンだったのではないだろうか。
こうした戦闘シーンでは、あまりに簡単に勝負がつきすぎてしまうので、やられた悪役の方はある意味「かませ犬」的なポジションになってしまうことも多いのだが、逆に言えば、その一瞬のために彼らの存在感を高められるように強烈なキャラクター付けがされていることがほとんどだ。バトル漫画ではどうしてもバトルからバトルへと次々に場面が移り変わっていってしまう中で、こうしたキャラクターがいることでメリハリが付き、さらに個別のバトルに奥行きが出るとも言える。
その場限りで死なせてしまうにはもったいないくらいに魅力あるやられ役がいてこそ、それを瞬殺する味方キャラクターの輝きも増すのだ。こうした「かませ犬」キャラクターの登場を楽しみにすることも、バトル漫画の楽しみ方のひとつだと言えるだろう。