バトル漫画の華であり醍醐味は、なんといっても敵味方がそれぞれ死力を尽くしてしのぎを削る戦闘シーンだ。実力が拮抗して勝負の行方がわからない緊迫した戦いが続き、読者は「いったいどっちが勝つんだろう?」と思わず息を飲み、手に汗握ってその行く末を見守る、というのが王道のパターンであると言えるだろう。数々の名シーンがそうしたバトルの中から生まれてきた。
しかし一方で、主人公やその味方が敵に圧倒的な実力差を見せつけて勝利する戦いも、またひと味違ったインパクトがあって、意外と記憶に残っているということも多い。相応の実力者ですら瞬殺してしまうほどの戦いぶりが強調されることによって、その強さやカッコよさがあらためて印象付けられるからだろう。
また、あまりにあっさりと負けてしまったために、やられたこと自体に気付かないというキャラクターの振る舞いがコミカルな味わいを生み出し、バトルの緊張感の中で一服の清涼剤的な役割を果たす場合もある。
そこで今回は、実力差が顕著で相手がやられたことにすら気づかずにあっけなく勝敗がついた戦闘シーンを紹介する。
■「三本でもおれとお前の剣の一本の重みは同じじゃねェよ!!」
まずは『ONE PIECE』から、義理堅く一本筋が通った男として人気を集める麦わらの一味の剣士、ロロノア・ゾロが軽々と勝利してみせた戦闘シーンを紹介する。
アーロンパーク編で、アーロン一味と対峙したとき、ゾロは魚人・はっちゃん(ハチ)と戦うことになった。はっちゃんは「おれ様を魚人島で一人を除けばNO.1の剣豪“六刀流のハチ”と知っているのかァ!!!」と名乗りを上げ、腕の多さと体の軟体さを活かした剣技には絶対の自信を持っており、人間には天地がひっくり返っても負けることはないとうそぶいていた。
一方のゾロは、世界最強の剣士・ミホークに付けられた傷によって、戦う前から満身創痍。さらに、1本の剣しかなく、ゾロの代名詞である三刀流の剣技が使えない状態ではっちゃんに立ち向かう。
戦いが始まると、ヨサクとジョニーの剣を借りるゾロだったが、はっちゃんと向き合ったまま、2人がゾロに向かって投げた剣を受け取る気配もない。いよいよはっちゃんの六刀流・蛸足奇剣が牙を向こうとしたその瞬間、ゾロは2本の剣をキャッチすると、そのまま三刀流・刀狼流しを決めたのだった。
6本の剣から繰り出される乱れ打ちをすべてかわしただけでなく、2コマ後にははっちゃんの胴体からは鮮血が吹き出す。この剣技を全く察知できなかったはっちゃんは「ニュ~~~~~~~っ!!?」と信じられない様子で悲鳴を上げ、想定外の事態に「刀三本しか持てねェお前が刀六本のおれに敵うわきゃねェ」と強がったのに対して、ゾロは「三本でもおれとお前の剣の一本の重みは同じじゃねェよ!!!」と言い放ってみせたのだった。不利な状況で始まった戦いの中でも違いを見せつけ、剣士としての気概と実力をいかんなく発揮した名シーンだ。
■すれ違いざまに心臓を抜き取るキルアの技術
次に『HUNTER×HUNTER』から、冷静沈着かつ確かな実力を持ちつつ、人間味あふれる性格も兼ね備える伝説の暗殺一家の三男・キルアの戦闘シーンを紹介する。
ハンター試験編の第三次試験の試験官として登場した解体屋・ジョネスは、懲役968年の刑に処せられているザパン市史上最悪の大量殺人犯だ。そんな彼は、異常な指の力を持っており、その威力は人の肉や石を素手で握りつぶすほど。対戦前には、キルアに向かって「これから行われるのは一方的な惨殺さ」と宣言し、久々にシャバの人間の肉をつかめることを楽しみにしていた。
しかし、2人の戦いは一瞬で終わってしまう。対戦が始まった次の瞬間、ジョネスの胸からは血がにじみ、すれ違い背を向けたキルアの手には心臓が握られていた。その光景を見て初めてジョネスは何が起こったのかを理解し、「か…返…」と哀れにも懇願するが、キルアは冷徹な微笑みを浮かべて心臓を握りつぶしてしまうのだった。
この後でキルアが発した「オヤジはもっとうまく盗む」は作中でも屈指の名セリフ。キルアの暗殺者としての能力の高さや冷酷な一面が存分に描かれた戦闘シーンだ。