■妹の死をきっかけに作中最強クラスになった禪院真希

 次は芥見下々氏の漫画『呪術廻戦』から、呪力がほぼない“落ちこぼれ”の禪院真希だ。『呪術廻戦』では、敵である呪霊は呪力を持っていないと視認できず、呪力を使わないと倒すのが難しいものとして描写されている。だが、真希は御三家と呼ばれる名門・禪院家に生まれながら呪力をほとんど持たない。それゆえに、夏油や禪院家の面々からは散々“落ちこぼれ”扱いされているのだ。

 そんな真希だが、呪力を持たない代わりに「天与呪縛」の恩恵を受け、身体能力がずば抜けて高く、格闘戦では無類の強さを発揮する。しかしその一方で、呪力で肉体をパワーアップすることができる強敵との戦いでは、その身体能力があまりアドバンテージにはならないことも多かった。また、真希が持つわずかな呪力が逆に「天与呪縛」のリミッターにもなっていた。

 しかし、その枷は、真希の双子の妹である真依の死によって外れることとなる。禪院家の権力争いに巻き込まれ、実の父に切り伏せられた真依は、死の間際に真希が持っていた呪力を「持っていった」のだ。これにより「天与呪縛」が完璧になり、すさまじい身体能力を獲得した真希は、禪院家の精鋭たちをまとめて相手にしても全く問題にしないほどの強さを見せつけた。「天与呪縛」という、何かを縛ることで強大な力を得られる恩恵をフルに受けることによって、ある意味では縛られていた力を解放することができたというのは皮肉な結果だ。

■大怪我の恐怖を乗り越えた瞬速のストライカー・千切豹馬

 最後は、原作・金城宗幸氏、作画・ノ村優介氏による異色のサッカー漫画『ブルーロック』に登場するストライカー・千切豹馬だ。名前に入っている「豹」の字が示す通り、50メートル走5秒77という驚異的なスピードが武器だ。だが、彼は過去にそのスピードが災いして右膝前十字靭帯断裂という大怪我を負ってしまっていた。負傷の前は天才として名を馳せ、自らも世界一のストライカーになると信じてサッカーをしていただけに、味わった挫折感の大きさは想像にあまりある。

 そんな過去もあり、ブルーロックプロジェクトに参加した当初は、夢を諦めるために戦っていた千切。しかし、潔たちの情熱に当てられて世界一を純粋に目指していた頃の気持ちを思い出し、「足が壊れても悔いはない」と開き直った千切は、相手チームほぼ全員をたった一人で抜き去ってゴールを奪い、衝撃の覚醒を果たした。怪我への恐怖を完全に克服したわけではないが、全力を尽くした結果には後悔しないという決意がもたらした熱い覚醒シーンだ。

 本人自体の能力は変化していないが、わずかなきっかけによって劇的に覚醒したキャラクター3人を紹介した。特にキルアには、メンタルが変わっただけでここまで強くなれるのか、と驚かされたものだ。特別な修行を積まずとも、元々そのキャラクターが持っていたポテンシャルを十全に引き出すことができれば、1段階上の能力が発揮できる。それはまた、キャラクターたちが読者にとってより身近なものとして感じられるシーンでもあり、少年漫画の醍醐味のひとつではないだろうか。

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