■どんな道を選べば家族を救えたのか「ミハル・ラトキエ」
最後に紹介するのは「機動戦士ガンダム」に登場するジオン公国軍のスパイ、ミハル・ラトキエだ。
幼い弟と妹を養うためにジオン軍のスパイとして活動していたミハルは、軍人になることに嫌気がさしていたカイ・シデンと意気投合し、密かにホワイトベースに密航する。しかし、自身がジオン軍に流した情報で起こった戦闘で、カイや艦内にいる子供たちが危険にさらされていることに心を痛め、カイの操縦するガンペリーに同乗し爆撃手を担当した。
ガンペリーの両翼に3発ずつ搭載されたミサイル。カイに「レバーは1つずつ押すんだ!」と言われ、カイの合図で忠実にミサイルを撃つがどれも外れてしまう。直後に敵の砲撃で電気回路が破壊され、コックピットから残るミサイルが撃てなくなるのだが、カタパルトにあるレバーを押すことでミサイルを発射できることを知ったミハル。
すぐさま、カイに向かって笑顔で「カイ、カタパルトの脇にレバーがあるんだろ?」と言い、制止する間もなくカタパルトへ行ってしまうのである。この笑顔がカイが見るミハルの最後の笑顔となるのだ。
明らかな死亡フラグを立てたミハルは、外がむき出しになったカタパルトでレバーを見つけ、嬉々とした表情でレバーを3つ同時に引いてしまう。しかしカイは確かに言ったのだ。「レバーは1つずつ押すんだ!」と。
3つのミサイルが同時に点火したことによる爆風でガンペリーから投げ出されたミハルは、その後、誰の前にも姿を現すことはなかった。愛する弟と妹を養うために行っていたスパイ活動に端を発した戦闘で自らの命を落としてしまうという、誰の心が晴れることもない残酷な最後となってしまった。
戦争がテーマの『ガンダム』では、キャラクターたちの死から逃れることはできない。お気に入りのキャラが死亡してしまうと、気持ちが沈んでしまうのはよくあることだ。死を予感させるわかりやすい“死亡フラグ”は、我々視聴者のショックを幾分か和らげる緩衝材のような役割を果たしているのではないだろうか。