■恩人のためなら20億円以上も惜しまない……
さて、BJの義理堅さを語るうえで欠かせないのは、やはりなんといっても秋田文庫版第2巻に収録されている「助け合い」である。
このエピソードは、BJがとある国で殺人犯と誤認され、現地の警察から自白を強要され暴行を受けているシーンから始まる。もちろん完全なる濡れ衣だが、警察は“犯人の顔にキズあとがあった”という目撃証言だけで、BJが犯人だと決めてかかっていた。
しかしそのとき、救世主――蟻谷という商社マンがあらわれる。BJは犯行時間にバーで飲んでいたのだが、そこにたまたま居合わせたのが彼だったのだ。蟻谷は国境を越える車のなかでBJが逮捕されたというニュースを聞き、その無罪を証明するためにわざわざ引き返してきてくれたという。
こうしてBJは無事解放される。蟻谷には「こまったとき助け合うのはあたりまえでしょう」と軽く流されつつも、いつか恩返しをすると約束した。
それから時が流れた北海道・札幌にて。蟻谷は勤め先である大安商事の局長から、汚職の罪をひとりでかぶって自殺するよう命じられる。踏切で飛び込むことにしようかと悩みつつ、すんでのところで「こんな責任おって死ねるもんかっ」と思いとどまった彼だが、そこを尾行していた車に跳ね飛ばされて電車に轢かれてしまった。確実に蟻谷の息の根を止められるよう、局長が裏で手を回していたのである。
ニュースでその出来事を知ったBJは、すぐさま蟻谷が運び込まれた病院に連絡。院長から“手はつくしたがあと数時間の命だろう”と知らされ、自分にオペをさせるよう頼むも、あっさり断られてしまう。
BJはここで諦めるどころか、驚きの行動に出た。彼は北海道に向かうため国内便のチケットをとろうとし、満席だと知るや車に乗りこむ。そして道路交通法ガン無視で(!?)車を飛ばしまくり、警察に追われれば愛車を乗り捨て、札束をちらつかせてレンタカーを借り、モーターボートを即金で購入して海を渡る……。
これだけでも十分すごいが、驚くのはまだ早い。BJは断固として手術をさせようとしない院長を黙らせるため、病院の経営者のもとへ行き、現金20億円で病院の経営権を買い取ってしまったのだ。そしてたいへんな手術を成功させたうえ、蟻谷が二度と命を狙われることのないよう、形成手術の際に彼の顔を別人に変えることまでしていた。
もちろんBJはこの手術では報酬を一切受け取っていない。レンタカーとモーターボート(どちらも金額は不明だが大金)、病院の購入費(20億円)だけでも、見事なまでの大赤字である。しかも最終的に病院の経営権は放棄しているので、この件でBJが得たのは“恩人の命を助けられた”という事実だけだ。もっとも、彼にとってはそれだけで十分すぎるほどだったのだろう。
ラストの蟻谷とBJのやり取りも非常に印象深く、まさに“情けは人のためならず”を体現したかのようなエピソードだ。
誰かが自分にしてくれたことを決して忘れず、その恩に報いるためなら何でもしてみせるBJ。そんな義理堅くてカッコいい彼の生きざま、ぜひ見習いたいところである。