手塚治虫氏による『ブラック・ジャック』の主人公であるブラック・ジャック(以下BJ)は、確かな腕を持つ代わりに法外な報酬を要求する天才外科医だ。ともすれば冷酷で非情にも見えてしまう彼だが、実は人一倍心優しく義理堅い人物であることは、本作の読者であれば誰もがご存知だろう。
そこで今回は、BJの義理堅すぎる一面がわかるエピソードを紹介していく。彼の渋くてカッコよすぎるところを、あらためて味わっていただけたら幸いである。
BJは、自分が受けた恩を決して忘れない人間だ。とくにかつて自分の命を救ってくれた名医・本間丈太郎に対する感謝の念と敬意はなによりも深い。
たとえば秋田文庫版第14巻収録の「満月病」で彼は、本間先生の娘が病気になったと知り、彼女のもとへみずから足を運んで手術をすると申し出ている。彼はこのとき手術代を一切要求しなかったうえ、手術が成功すると名乗ることもせず立ち去ったのだが、それからも彼女のことをひっそりと見守り、ピンチには駆け付けるというカッコよすぎる姿を見せている。
またもうひとりの恩師・山田野先生の孫の友人を手術する際、50万の報酬をたった1000円に値下げしたことも。患者本人が恩師とかかわりがあるわけではないのに、どこまでも義理堅い人である。
そのほか、BJは山で怪我をした際、タローという名の優しいクマに助けられたことがあり、その恩返しに奔走したこともある(秋田文庫版第7巻収録『1ぴきだけの丘』)。
タローのふるさとに緑を取り戻すため自然保護団体に一億円を寄付したり、身体に問題を抱えていると知って手術を決めたり、捕まってクマ牧場や動物園を転々とさせられたタローを追ってあちこち飛び回ったり……。命を救われたとはいえ、ここまでできる人はそういるものではない。