漫画を読んでいると「あっ! 作者はこのキャラが好きなんだ」と思うことがある。例えば、メインキャラでないにも関わらず印象的なシーンが多く描かれたり、設定を深く掘り下げられたりなどさまざま。そのうえ作者の「好き」がこうじてか、そんな彼らにトンデモない重荷を背負わせてしまう傾向もあるようだ。
そこで今回は、どう考えても作者の「愛」が強すぎて“大変な目にあった”キャラを紹介する。
■なぜライナーだけがこんな目に?
2021年に感動のフィナーレを迎えた『進撃の巨人』から、ライナー・ブラウンを紹介。作者の諫山創氏が「一番好きなキャラ」と語る彼は、作中で1、2を争う不憫キャラでもある。
主人公エレン・イェーガーと同じ第104期訓練兵団を卒業したライナーは、大柄で筋骨隆々な17歳の少年だ。冷静な判断や面倒見のよさなどに加え、年齢が同期より上のため兄貴的存在だった。
そんな彼の正体とは、5年前にシガンシナ区の門を破り多くの命を奪った元凶「鎧の巨人」。ライナーは同じ「巨人」のアニ・レオンハートやベルトルト・フーバーと任務を続ける。だが、正体のバレたアニが兵団に捕まるなど追い込まれてゆき、ライナーはエレンに自分たちが「巨人」であると暴露する。
実は、作中でのライナーは自身を「兵士」と「戦士」で使い分け、言動にも矛盾点が多い。これは彼の罪悪感から生じる精神分裂のあらわれで、諫山氏の綿密な細工でもあった。エレンたちに裏切り者とそしられ、さらにベルトルトを失ったライナーは窮地に陥ったところをジーク・イェーガーに救われ、数年ぶりに故郷「マーレ国」への帰還を果たす。
4年の月日が流れ、マーレで軍人として従事するライナーだが、その心労は恵まれていた体格にまで影響を与える。身長は185センチから3センチ伸びたものの、体重は95キロから12キロも減っていた。
さらに97話では、虚ろな瞳でライフルを口に咥えて自殺未遂をするほど彼の精神的疲弊はピークに達してしまう。追い打ちをかけるようなエレンからの断罪、マーレ内での不幸な生い立ち、鎧の巨人に選ばれた真相などなど、彼の不幸を数え上げたらキリがない。
なぜライナーだけがこんな目に? と思わず頭を捻りたくもなるが、諫山氏は2021年にTVアニメ『マブラヴ オルタネイティヴ』放送記念へのコメントで「物語を面白くする方法は登場人物を追い詰めること」だと語っている。本作が人気となった陰には、ライナーの不憫さも貢献しているのかもしれない。
■作者の熱量の高さがファンの間でも話題に
2022年に大円団で幕を降ろした『ゴールデンカムイ』の谷垣源次郎は、作者の野田サトル氏から「愛されすぎ」だとファンの間で話題となったキャラだ。
谷垣は第七師団に所属する以前は故郷・秋田で「マタギ」として生活し、兵士となったのは復讐のためという暗い過去を持っていた。124センチの胸囲や濃い目の胸毛など「男らしい」見た目で、不器用ながらも真面目で義理堅い性格。そのためアイヌの少年チカパシに懐かれ、美女インカラマッ(※ラは小文字)に慕われている。
そんな彼は「ゲンジロちゃん」や「小熊ちゃん」などの愛称でも呼ばれ、作中ではもっぱら「愛すべきいじられキャラ」として活躍。例えば、ことあるごとに胸元のボタンが弾け飛び、写真を撮る際に一人だけフンドシ一枚のセクシーポーズなど、他キャラとは違う扱われ方をしていた。
また、野田氏は自身のツイッターアカウントでコミックス用に修正した谷垣を、わざわざ雑誌掲載時との比較画像まで作って投稿。修正された彼は、首を太くしたり胸毛やヒゲなどを濃くするなど、そこには作者の並々ならぬこだわりが伺えた。
『公式ファンブック』では各キャラへの作者コメントが2行程度で終わるのに対し、谷垣については6倍以上の文字数と熱量で書かれたうえ「一般受けはしないけど作者の好みを反映させたキャラ」だと断言もしているのだ。つまり作者の“愛”を受けた結果、作中でトンデモない扱いになったのが谷垣なのだ。
なお、アニメで『進撃の巨人』ライナーと『ゴールデンカムイ』谷垣どちらの声も担当したのが声優・細谷佳正だった。『鉄血のオルフェンズ』のオルガ・イツカをはじめ、細谷は「頼れる兄貴キャラ」を演じることが多いようだ。