日本を代表するミステリー作品である漫画『金田一少年の事件簿』。名探偵金田一耕助を祖父に持つ主人公・金田一 一(はじめ)が、幼馴染みの七瀬美雪とともに遭遇する難事件を、天才的な頭脳と祖父譲りの推理力で解決していく、というのが基本的なストーリー。1992年に『週刊少年マガジン』で連載を開始し、たびたびアニメやドラマ化されるなど幅広い層に受け入れられてきた。昨年で連載30周年を迎え、現在は『イブニング』にて最新シリーズ『金田一少年の事件簿30th』が連載中だ(『イブニング』は2月28日発売号にて休刊予定)。
この作品の特徴の一つとして、ほとんどの犯人が「怪人名」と呼ばれる二つ名を持ち、仮面やマスクを使って正体を隠していることが挙げられる。そうしたミステリアスな演出によって、読者により恐怖を植えつけるとともに、「登場人物の誰が犯人なのか」という謎を深めているようにも思う。
『週刊少年マガジン』連載時には誌上で「真相当てクイズ」がリアルタイムで出題されており、漫画の中に描かれているヒントや証拠から真犯人を推理するのも読者にとっては大きな楽しみのひとつだった。事件の全貌が明かされる際には毎回驚かされてきたものだが、中でも、金田一と同じ不動高校の生徒が犯人だった事件に大きな衝撃を受けたのは筆者だけではないだろう。
そこで今回は、特に印象的だった不動高校の犯人たちを振り返りたい。
■凄惨な犯行の裏に隠された哀しい復讐劇「悲恋湖伝説殺人事件」
「悲恋湖伝説殺人事件」は、『金田一少年の事件簿』の中でも指折りに残虐性の高い、トラウマ必至の事件だ。
事件は、美雪の従兄の頼みを受けた金田一と美雪が、長野県の悲恋湖畔に建設されるリゾート地のモニターツアーに参加したことから始まる。和気あいあいとした雰囲気でコテージに到着した一行だったが、ラジオからはかつて10数名を殺害した凶悪犯、通称「ジェイソン」が、悲恋湖に近い施設から脱走したという不気味なニュースが入る。そして翌日、あたかもジェイソンによって殺されたかのような、顔を切り刻まれたツアー客の死体が発見される。いつ、どこでジェイソンに襲われるのかわからない恐怖の中、次々に惨殺死体が見つかっていく……。
脱獄のニュースや犯行の手口から、犯人は脱獄した凶悪犯のジェイソンに違いないと参加者が予想する中、金田一だけは違和感を覚えていた。脱獄犯で土地勘がないはずなのに地理に詳しいとしか思えない行動や、逃亡中で空腹のはずなのにコテージの食料に手を付けていないことなど、不自然な点がいくつもあったからだ。
そして、犠牲者の1人である画家の小林が、死の直前にダイイングメッセージを残そうとしたことが真犯人にたどり着くための大きなヒントとなる。また、別の犠牲者である不動産会社社長の香山三郎の妻・香山聖子が疑いを掛けられたが、彼女が水恐怖症であることを告白したのも、犯人を特定する上で欠かせないヒントとなった。
これだけの大がかりな計画を立て、実行したのが不動高校の生徒だったことを知ったときには非常に驚いた。事件の舞台となった悲恋湖には、その名の通り、かつて愛し合いながらも結ばれなかった男女が身を投げたという伝説があるのだが、事件の真相にも犯人の過去にまつわる悲しい恋の物語が絡んでいたのだった。大人になった今、読み返してみても、高校生の犯人がこれだけの事件を引き起こした執念は、恐ろしくもあり、哀れにも感じられる。