■作者が主人公として直接登場する『ちびまる子ちゃん』まる子

 いまや『サザエさん』と並んで日曜夕方の定番になっている、さくらももこさんの『ちびまる子ちゃん』。1970年代の静岡県清水市(現在の静岡市清水区)を舞台に、小学3年生のまる子が学校や家庭で繰り広げるさまざまな出来事を描いた作品である。

 まる子が作者の子ども時代の投影であることは広く知られている。作中のエピソードも作者の実体験をもとにしているが、面白おかしくデフォルメされていたり、まったく架空のエピソードも混じっていたりするそうだ。

 なかでも興味深いのは、まる子の祖父・友蔵の描写である。1991年に刊行された、さくらさんのエッセイ『もものかんづめ』(集英社)では、実際の友蔵が作中の人物像とはまったく違うことが明かされたうえで、「『ちびまる子ちゃん』に出てくる爺さんが、まる子をかわいがるのは、私の憧れと理想とまる子への想い入れが混じっているのだと思う。」と書かれている。

 そう考えると、本作は単に作者が子ども時代を懐古して漫画にしただけの作品ではなく、子供のころの自分を内省して慰め、慈しむために描いたものでもあるのかもしれない。

 

 小説と違い、漫画は絵やコマ割り、セリフの入れ方など表現方法が多いぶん、作者の脳内にあるイメージがダイレクトに伝わりやすい。まるでその人の世界に招き入れられたかのように感じることも……。

 その点では、描かれているものすべてが作者の投影でもあるのだろう。そんな世界にすぐに触れられるなんて、漫画とはなんと贅沢で奥深い楽しみだろうか。

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