■ブラック・ジャックにとってもかけがえのない存在・ピノコ
一方ブラック・ジャックは、基本的にはピノコを“娘”として大切に想っている。態度こそぶっきらぼうではあるが、彼女に対しては激甘の親馬鹿だ。
泳ぎたいと言われれば人工の身体でも浮けるほど濃い塩水のプールを作り(秋田文庫版13巻収録の『水とあくたれ』)、高校に行きたいとゴネられれば大金で関係者を説得してまで入試に漕ぎつける(秋田文庫版2巻収録の『ハッスルピノコ』)など、ピノコのワガママはなんだかんだで聞いてしまう。
さらにピノコのためメキシコのお土産でひょうたん人形を買ってきたときには、「わがむすめピノコへ」というメッセージを添えていた(秋田文庫版3巻収録の『研修医たち』)。ピノコはぶちギレていたが、ブラック・ジャックがわざわざ文字を書いている姿を想像すると微笑ましい。
しかしブラック・ジャックは、ピノコをひとりの人間として信頼してもいるようで、自分がいないあいだの留守を任せるほか、手術を手伝わせることもある。ピノコのことを「あれはすばらしい助手です」と褒めたり、基本的にピノコ以外に助手を務めさせるつもりがなかったりと、彼にとって彼女は公私ともになくてはならない存在なのである。
また連載の最終回にあたる『人生という名のSL』(秋田文庫11巻収録)では、ブラック・ジャックがピノコに対し「おまえ私の奥さんじゃないか」「それも 最高の妻じゃないか」と発言する場面もあった。のちにこれは彼が見た夢のなかの話だとわかるのだが、ピノコの一途な想いが報われたようで思わずニッコリしてしまった。
今回取り上げた例はほんの一部で、原作漫画にはまだまだブラック・ジャックとピノコの愛おしさがわかる描写がゴロゴロ転がっている。ぜひこの機会に本編を読み返して、彼らの魅力を存分に味わっていただきたいところだ。