手塚治虫『ブラック・ジャック』B・Jとピノコの絆の深さに“思わずじんとしたエピソード”の数々の画像
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 今年で連載50周年を迎えた手塚治虫氏の『ブラック・ジャック』。本作の魅力のひとつとして挙げられるのが、主人公のブラック・ジャックとピノコの関係性である。

 ピノコは双子の姉のこぶ(畸形嚢腫)のなか、人体のパーツがバラバラの状態で生きてきた存在だ。彼女は天才医師ブラック・ジャックに組み立てられて人間として生まれ直し、彼とともに生活することになる。

 ブラック・ジャックからしてみれば“父と娘”、ピノコに言わせれば“夫と妻”、そしてなにより“医師と助手”……と、複数の関係性で言い表せるこのふたり。今回は大小さまざまなエピソードも交えながら、彼らの絆の深さについて紹介していきたい。

 

 ピノコは生まれて間もない赤ん坊のような存在で、見たところ幼稚園児くらいの女の子だ。実際、しゃべり方は舌足らずで性格や行動も幼い。しかし当人はこぶのなかで18年以上生きてきたことを理由に、自分は“としごよのレレイ(年頃のレディ)”だと主張している。

 ブラック・ジャックの“おくたん(奥さん)”を自称してもいるピノコは、大好きな彼のためいつも一生懸命である。料理や洗濯、掃除など身の回りの世話をこなし、オペの際には助手を務めることもしばしば。ブラック・ジャック宛てのラブレターをせっせと書き、ことあるごとにキスをするなど、愛情表現も欠かさない。最初は鬱陶しがっていたブラック・ジャックが、だんだんまんざらでもない反応をみせるようになっていくのもツボである。

 またピノコは嫉妬深いところもあり、ブラック・ジャックの過去の女性関係を気にしたり、綺麗な女性が彼の前に現れると「ウワキはゆうちまちぇんっ(ウワキは許しませんっ)」と釘を刺したりもする。

 こうしたピノコの振る舞いは“おままごと”のように見えることもあるが、その愛情が決して口先だけのものでないとわかるエピソードはいくつもある。

 たとえば『ピノコ西へ行く』(秋田文庫版8巻収録)で、ブラック・ジャックが厄介な依頼人に訴えられ、ほとぼりが冷めるまで友人の持つ山小屋に姿を消したときのこと。ピノコは留守番を言いつけられたのだが、我慢できずに列車やバスを乗り継ぎ彼を追いかけることにする。

 正確な場所がわからなくても、車掌さんに“こんな時期に山をのぼるなんて”と止められても、愛ゆえにひとりきりで雪深い山道を突き進んでいく姿はあっぱれだった。

 そのほかにも印象的だったのが、『ピノコ再び』(秋田文庫版17巻収録)での描写。このエピソードでブラック・ジャックはピノコを養子に出そうとするのだが、彼から「もっとこどもを大事にしてくれるうちのほうがいいんだ」と言われた彼女は、メスや注射器を投げまくり泣き叫び、猛反発をする。しかしブラック・ジャックが「私はおまえがいるとじゃまなんだ」と言い換えた途端、その態度はがらりと変わる。

 彼女は「ピノコがいないほうが先生しあわせなのねえ……………」とつぶやいて、涙を呑むのだ。こんな風に、一緒にいたくても相手のために離れる決意をするということは、立派な大人でもそうそうできることではない。

 この場面ではピノコの表情の変化が4コマにわたって描かれており、なんとも切なかった。もちろんブラック・ジャックもピノコのことを思ってこそ突き放しているのだろうが……。

 そんな先生ラブなピノコだが、ブラック・ジャックから“小さいときには男の子なら母親を 女の子なら父親を愛する”と「エディプス・コンプレックス」の話を聞かされたときには、赤面してギクリとしているような描写もあった(秋田文庫版14巻収録の『小さな悪魔』)。自分にも思い当たる節があって、つい動揺してしまったのかもしれない。

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