■過酷な運命を背負った『鬼滅の刃』
衝撃的な第1話といえば、社会現象にもなったこの作品が忘れられない。2020年に連載終了した吾峠呼世晴氏による『鬼滅の刃』の1話は、目を覆いたくなるような悲惨な内容だった。
それは、家族思いで心優しい少年の竈門炭治郎が家族のために炭売りから帰ると、妹の禰豆子を除く母や弟妹たちが皆、鬼に惨殺されていたというもの。
竈門家は父を病気で失っていることにより、それまで家族みんなで慎ましいながらも幸せな生活を送ってきた。それが一瞬にして壊されたのだから、炭治郎にとっては気がおかしくなるほどの絶望だろう。しかも唯一生き残った禰豆子も鬼と化しており、正気を失って炭治郎に襲いかかってくる。
以降『鬼滅』の物語の中では、重要なシーンのたびに炭治郎の回想やイメージシーンとして死んでしまった家族たちが炭治郎を元気づけるシーンがある。そもそも鬼にさえ襲われなければ、炭治郎らはこれからもずっと過酷な戦いに身を置くこともなく、仲間を失うこともなく、家族と幸せに生き続けることができたのに。そう考えると胸が痛い。
こうしてみると、最近の『ジャンプ』主人公たちは、若くして悲惨な状況に身を置かざるを得ないことが分かる。むしろ最近の作品では、何の問題もなく円満な家庭のほうが希少な存在になっていると見えなくもない。