■“先鋭的”な手法で魅せる忍者の世界!『ムジナ』
漫画家・相原コージ氏といえば、数々のギャグ漫画家のなかでも特に先鋭的かつ実験的な作品を手掛けることで有名だ。出世作であり初単行本作品である『ぎゃぐまげどん』は、そのあまりにも型にとらわれない手法の数々で、編集部からも“邪道まんが家”という誉め言葉をもらったほどである。
そんな彼が『週刊ヤングサンデー』(小学館)にて連載を開始したのが『ムジナ』である。これは、相原氏と竹熊健太郎氏が手掛けた『サルでも描けるまんが教室』(サルまん)のなかで展開されたストーリー漫画の技法をもとに作り上げた忍者漫画だ。
忍者社会の階級闘争というテーマを主軸に、随所にえぐい描写がこれでもかと登場する。伏線をほぼ完璧に消化していく緻密なストーリー構成は見事の一言で、脚本の質の高さが光る一作だ。
そしてなにより、やはり相原氏ならではの“先鋭的”な手法も、随所に取り込まれている。“実験シリーズ”と称されたそれは、作中に間違い探しを織り交ぜたり、ページ端で同時系列の他キャラクターの動きを描いたりと、今までの漫画表現に使われなかったが、それでいて“漫画だからこそできること”を、これでもかと実験している。
過去の相原氏の作品を知らない読者にとっては、その独特の描写や表現方法に戸惑ってしまうほど、従来の“漫画”という枠にとらわれず、それでいて使い捨てにされる忍者社会で愛のために奔走する主人公・ムジナの奮闘を描いた渾身の一作だ。
数々の先進的な表現を盛り込みつつ、そのなかで忍者として躍動する“人間”たちの生き様を鮮烈に描き切った、相原コージ氏の作家としての実力が光る作品である。
普段はコミカルな描写やストーリーで読者を笑わせるギャグ漫画家だが、彼らの描くシリアスな作品は、ほかの作品を知れば知るほど強烈なギャップを抱いてしまうかもしれない。しかし、毛色の違うシリアスな作品ですら多くの人々を魅了してしまうのは、彼らの漫画家としての高い手腕をまざまざと見せつけられてしまう。