■絶望と恐怖に支配された人間の狂気
小さな穴やブツブツが集まったものに嫌悪感を抱く「集合体恐怖症(トライポファビア)」にとって、この作品はトラウマの塊かもしれない。
望月峯太郎氏の漫画『ドラゴンヘッド』は、1994年から1999年にかけて『週刊ヤングマガジン』に連載された「世紀末サバイバル」と銘打たれた作品。修学旅行の帰りに起きた大地震により、新幹線ごとトンネル内に閉じ込められた中学生らの恐怖体験が描かれている。
地震による脱線事故を起こした車内には、教師や生徒たちのおびただしい死体が山積みになっていた。主人公の青木照(テル)は意識を失っていた瀬戸憧子(アコ)を救い、もう一人の生き残り「高橋ノブオ」と出会う。
ノブオはいじめられっ子だが短気で怒りやすく、そのうえ挙動不審な言動の多い人物。そんな彼は閉鎖空間で少しづつ正気を失い、多くの読者に恐怖を植え付けるような行動を取るようになる。
教師の遺体を「神」として祀り上げたり、化粧品で奇妙な模様を描き始めてしまうのだ。この模様が口の周りをピエロのように大きく塗り、顔には小さな丸を、上半身裸の身体にも無数の水玉をギッシリ描いていたのだ。ただでさえ異常事態であるのに、この姿を見たアコが「…この人おかしいッ!!」と思うのも無理はない。
さらに、アコの裸体に同じような模様を描くなどかなりのイカれ具合だ。
読み進めていくうちに『ドラゴンヘッド』の意味も解明され、人間の心に棲みつく「恐怖」に抗いきれない人間の弱さや愚かさなども描かれている。
以上「世紀末的世界観」を舞台にした「トラウマエピソード」をいくつか紹介した。どの作品も人の心を描いた良作揃いだが、絶望する大人の「弱さ」に対し子どもの「強さ」が際立っていた気がする。