■安西先生の言葉の意味…積み重なった違和感がドタン場で生きてきた?

 ところで、一つ引っかかる点がある。ゾーンプレスを仕掛けたあと、河田、松本と立て続けにファウルを出していることだ。それより前には、深津一成から宮城へのインテンショナル・ファウルもあった。

 ファウルもやむなしの場面ではあったが、あの恐ろしく冷静な深津がみすみすインテンションをとられたことに、違和感を覚えた人はいないだろうか。もちろん試合が白熱すればファウルも増えるが、それにしてもという気がする。これを、山王の焦りや戸惑いの表れととることはできないだろうか。

 試合前、安西先生は言っていた。「『おや ちょっと違う』『あれ違うぞ』」「その積み重ねがドタン場で生きてくる」と。そして作戦どおり、山王を数々の「あれ違うぞ」が襲う。

 試合開始直後の湘北の“奇襲”、一之倉聡が抑え込むはずだった三井の三連続3P、今一つ掴めない試合のリズム。それでも「今は湘北にツキがあるだけだ」「三井の3Pも最後まで あんなに入りゃしないさ」と考え、美紀男を投入。

 そこを安西先生に突かれ、また一つ「あれ違うぞ」が積み重なった。後半には、野辺が桜木に敗れ、限界だったはずの三井に大量得点を許し、流川と沢北の“エースの差”は消滅、会場のムードもいつの間にか湘北に傾き始めた。

 これだけ積み重なった違和感を自信のなかにしまい込んで、山王はいつものプレイに徹する選択をした。それでも違和感は完全に消えたわけではない。じわじわと表に滲み出し、大事な局面でのファウルという形で現れたのではないか。とくに松本は三井の不気味さに後半ずっと翻弄されてきたし、4点分ものファウルを出したのも何となくうなずける。

 

 湘北と山王について、宮城は「そこまでの力の差はない」と読んでいた。その読みが正しければ、わずかな力の差を埋めたのは桜木と流川の成長、そして山王の自信を巧みに突いた名将・安西の采配なのかもしれない。

 これらはすべて勝手な推測にすぎないし、勝負の世界に“if-then”を持ち込むのは無粋な気もする。それでもやっぱり、あれこれと考えを巡らせずにはいられない。それが名勝負というものなのだろう。

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