井上雄彦氏によるバスケットボール漫画『SLAM DUNK』は、かつて日本に一大バスケ旋風を巻き起こした。そして現在、2022年12月3日に公開された映画『THE FIRST SLAM DUNK』の大ヒットにより「バスケブーム再来か⁉」との期待の声も高い。
リアルな試合模様が人気の本作であるが、作中の試合でもとくにファンを熱くさせたのは、高校王者の山王工業高校に無名の湘北高校が挑む試合ではないだろうか。単行本全31巻のうち7巻を費やした世紀の大試合は、わずか1点差で山王の敗北となる。
なぜ王者・山王は無名の湘北に負けたのか。試合の内容を振り返りながら、山王の敗因について考察した。
■桜木のオフェンスリバウンドがすべての始まりだった
試合が大きく動いたのは後半。まず、山王が得意のゾーンプレスで後半開始早々24点もの大差でリードしていたにもかかわらず、その後8点差までに追い上げられたときだ。
この追い上げは、おもに三井寿によるものだ。後半、湘北があげた43得点のうち、実際、三井は16得点と3分の1以上を占めている。さらに赤木剛憲へのアシストを加えると、実に18点分の働きだ。
この三井の活躍の背景にあるのが、安西先生が「追い上げの切り札」と言っていた桜木花道のオフェンスリバウンドである。海南・高頭監督、赤木、そして山王・堂本監督も言っていたように、桜木がことごとくリバウンドを拾ってくれるから、三井は安心して3Pを打つことができた。それが大量得点につながり、湘北に勢いをもたらすことになったのだ。
■山王の桜木対策は遅すぎたのか
それでは、桜木をもっと早くに警戒していれば山王は負けなかったか? その可能性は十分に考えられる。
桜木に河田雅史をつけたのは後半残り8分を切った時点。それまで河田がマークしていた、赤木はどうするのか。素直に考えれば野辺将広をつけるだろう。しかし試合に出続けて疲労困憊の野辺に、赤木を抑えきれる保証がどれほどあるだろうか。もっとも、疲れているのは赤木も同じ。それなら、体力が十分残っており、赤木より体格が大きな河田美紀男をつけたほうが、まだ分がある……堂本監督はそう踏んだのではないか。
しかし、もしももっと早くに河田を桜木につけていれば、彼のオフェンスリバウンドはここまで成功しなかっただろう。それに伴い三井の大量得点はなくなり、赤木は河田の陰を吹っ切れないままリバウンドの名手・野辺を相手にしなければならず、宮城リョータに「致命的なミス」とまで言われた美紀男の赤木マークもなくなり……そうして湘北には一度も流れが来ないまま試合終了……となっていたかもしれない。