■流川の覚醒により“エースの差”がなくなった
一時は怒涛の追い上げにあった山王も、その後はエース・沢北栄治が連続11得点をあげ、残り5分を切って再び18点差で湘北を突き放す。独断場の沢北と、ことごとく抜かれる湘北エース・流川楓。これを見ていた愛和学院の監督は、“エースの差”による山王の勝利を予測する。
しかしこの後、流川のパスが湘北に流れを引き戻した。赤木へのパスに始まり、流川のパスからつながった得点は三井、桜木と合わせて11点。さらにパスの選択肢ができたことで沢北との1on1も同等レベルになり、その後7得点をあげた。
前半、描かれている範囲では沢北相手に4得点しかできなかった流川が、パス後は18点に絡んでいる。対する沢北は、これ以降わずか2得点と抑え込まれた。
流川の成長によって“エースの差”は実質なくなり、山王の勝利を確信させるものが一つ減った。ここでどう出るかが、山王にとっては非常に重要な選択だっただろう。
■沢北の1on1とゾーンプレスにこだわったのはなぜか
“エースの差”がなくなったからには、山王は沢北の1on1にこだわるのをやめるべきだったのか? たしかにそうかもしれない。沢北でなくても河田がいるし、三井に松本稔を止めるだけの力は残っていない。ボールを分散させたほうが、得点率は上がったはずだと考えられる。
加えて、ラスト2分を切って7点リードの局面でのゾーンプレス。高頭監督いわく「引いてきっちり守れば逃げ切れる時間と点差」でも、山王はあえて攻めて突き放すことを選んだ。
堂本監督がここまで”無敗の山王”の得意なスタイルにこだわったのはなぜか。それは、“自分を信じていつものプレイができれば勝てるはず”という、絶対的な自信だろう。
決して湘北を侮っているわけではない。弱小校相手に十分すぎるほどの事前対策をしていたし、たしかに油断や慢心はなかった。だからこその自信だ。その自信が“試合に勝って勝負に負ける”結果になることを許さなかったというのは、想像に難くない。