■笑われながらも情熱で突き進む『県立海空高校野球部員山下たろーくん』
史上最高の野球部員を目指すのが、こせきこうじ氏による『県立海空高校野球部員山下たろーくん』(集英社)だ。
たろーは何をやってもうまくいかず、勉強・スポーツがダメで、ただ野球だけは大好きな高校生。しかし、彼が所属する海空高校野球部はいつもコールド負けという弱小チームで、たまたま通りすがりの強豪校におだてられたことから勘違いし、奮起してしまうようなどうしようもない奴らだった。
しかし、ここからたろーは本領発揮していく。天然ともいえるキャラなので、本気で史上最高の野球部員になろうと非常に高いモチベーションで努力を積み重ねるのだ。そんなたろーに感化されたチームメイトたちも、必死に喰らい付いていく。
もちろん、先に挙げた第三野球部の海堂のように、海空高校にも飛び抜けた才能の元選手がいる。それが辰巳亮介だ。全国区の選手なのだが、中学時代に暴力事件を起こして野球を一時辞めていた。彼は暴力的で日常的にたろーに殴る蹴るといった行動をするのだが……(いや、いじめなんじゃないの……!?)彼ですら、たろーに感化されて情熱的になっていく。
このように周りが熱くなるなか、一人だけ常に冷静な選手がいた。それが「さすらいの賭博師」須永だ。筆者の世代では好きな人が多かったのではないかと思う。一応高校生なのだが、なぜかギャンブルに精通しており、しかも腕前は相当なもの。この須永の勝負師としてのセンスから、海空野球部のチャンスが生まれていく。
それにしてもこの漫画は、本当に面白かった。好き嫌いが分かれそうだが、主人公がとんでもない剛速球で三振を取る……というのではなく、一般的な直球で勝負するのがリアルでよかったな。
■名門校に間違って推薦入部した素人に強烈なシゴキ!『4P田中くん』
最後は、原作:七三太朗氏、作画:川三番地氏による『4P田中くん』(秋田書店)だ。
青森出身の田中球児は同姓同名の“10年に1人の逸材”と間違われて、野球名門校の栄興学園に入部する。これは、野球部の八十島監督の字が下手過ぎて、手違いから手続きのミスが起こっていたのだ。
監督は強制的に退部させられないからと、自主的に辞めてもらうために、田中に鬼のような別メニューの“シゴキ”を課していく。いや、そもそもアンタのミスであろう……。
小柄な選手なものの、田中は驚異的な体力と回復力でシゴキを耐え抜いていく。現代ではうさぎ跳びをずっとやらされるのは危険なことだと言われているが、あの当時は筆者もよくやらされたものだった。今なら保護者からクレームの嵐だぞ……。
どう考えてもクリアなどできないはずだったが、言われた通りに真面目に努力する田中にいつの間にか周囲も応援してアドバイスをするようになる。そして田中もアドバイスを的確に守り、急激に成長していくのだ。さらには監督も考えをあらため、田中を正式なレギュラーとして扱うようになっていく。
しかも田中は持ち前の体力のほか、カエル捕りで培ったコントロールの良さと、ライバルの攻略を見破る眼力に優れていた。努力の人であるうえ、生まれ持ったセンスも抜群といえるだろう。
ただ、田中は少し目立ちたがり屋で、自分さえよければすべてよしというタイプでもあった。ちょっと困ったヤツなのだが、4番でエースというからにはそれくらいの度胸は必要なのかもしれない。
さて、今回は令和の現代(平成後期も含める)では考えられないような設定の高校野球漫画を紹介してきた。これら野球漫画でも描かれている通り、当時は“シゴキ”という言葉が当たり前であり、監督や先輩からも殴られたりしたものだ。
決して美化する必要はないのだが、漫画の登場人物たちが必死になって泥臭く気合と根性で不遇を乗り越えていく姿には、やはり感動を覚えたものだったな。