■桜木から木暮へ…「引退がのびたな」

 厳しい赤木とは対照的に、3年生の副キャプテン木暮公延はいつも優しく桜木を誉め、評価してくれる。ただ試合への出番は少なく、スター選手と比べると突出した能力はない。湘北対陵南との地区大会決勝戦でも、陵南・田岡監督は木暮を「層のうすいベンチ要員」とみなしていた。

 しかしラスト1分、湘北リードから陵南に1点差まで追いつかれたとき、桜木は絶好調の流川を無視して木暮にパスを出す。そして彼は見事に3Pを決め、陵南の逆転を遠ざけた。

 3年生の木暮に「引退がのびたな」と桜木。単に流川にパスしたくなかっただけにも思える場面だが、のちに田岡監督も木暮に関して「あいつも3年間がんばってきた男なんだ」「侮ってはいけなかった」と考え直している。木暮をよく知っている桜木だからこそ、信じて託したパスだったのかもしれない。

■深津から沢北へ…エースへの絶対的信頼

 インターハイ2回戦、「最強山王」こと山王工業高校は湘北の粘りに苦戦し、一時20点以上あったリードもラスト3分で一桁差まで追い詰められていた。

 その要因の一つはエース流川の活躍だ。最初こそ沢北栄治に歯が立たなかった流川だが、「日本一の高校生になる」という覚悟のもと、どんどん進化していく。加えて、桜木の予測もつかない動き。そのせいで沢北には、流川との1on1にも二人分のプレッシャーがかかっていた。

 それでも山王は最後まで沢北の1on1にこだわる。残り30秒を切り、ついに湘北に逆転を許しても、深津一成は迷わず沢北へパスを送っていた。

 エースへの揺るがない信頼も、それにきっちり応えて点を取り返すエースも、そのメンタルの強さまでが“まさしく最強”だと思わされたシーンだ。

■流川から桜木へ…“終生のライバル”へ託したパス

 パスというと、物語ラストの流川・桜木のパスシーンは、原作ファンには忘れられない名場面だろう。

 山王戦ラスト30秒、湘北1点ビハインドの大事な局面では、桜木がやっとの思いでとったボールを流川に託す。あれだけ流川へのパスを嫌がっていたにもかかわらず、だ。それに応えて逆転のダンクを決める流川。

 ラスト2秒、再び湘北1点ビハインド。最後の攻撃を仕掛ける流川の目に、パスを待つ桜木の姿が映る。ゴールから斜め45度のベストポジションに立ち「左手はそえるだけ…」と桜木。それを見て、意地っ張りで負けず嫌いのエース流川が、最後の1秒を桜木に託した。

 絶対に口には出さないが実は互いに認め合っていた二人が、最終局面で見せた信頼の形である。託された桜木も、湘北の逆転勝利という形でそれに報いるのだった。

 

『SLAM DUNK』より、仲間を信じて託したパスの数々を紹介した。

 これから寒さも厳しくなってくる時期だ。そんな今だからこそ、映画『THE FIRST SLAM DUNK』でも見られる選手たちの熱い信頼関係に、胸を焦がしてみてはどうだろうか。

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