12月3日に公開された、井上雄彦氏による新作映画『THE FIRST SLAM DUNK』。作中では“仲間への信頼”がテーマの一つとして描かれているが、バスケの場合、その信頼の証ともなるのが土壇場でのパスだと思う。
そこで今回は原作『SLAM DUNK』のなかから、仲間を信じて託した熱いパス場面を紹介したい。
■三井から流川へ…新旧エースをつなぐパス
中学MVPで湘北高校期待のエースでもあったのに、ケガを機にグレてしまい、かつては不良仲間を引き連れてバスケ部を襲撃したこともあった三井寿。
3年生にして初の40分フル出場となった翔陽高校との試合では、ブランクのせいもあってか、後半には体力がもたずフラフラになる。それでも三井を突き動かしていたのは、持ち前のあきらめの悪さや、チームへの償い、無駄にした時間への後悔など、さまざまな思いだ。
残り3分を切り、ルーズボールを追いかけて飛び出していった三井。やっとの思いで取ったボールを流川楓に託すと、ついに限界を迎えてコートを去る。
流川はそのパスによって同点ゴールを決めたが、三井としては自分で決めたい局面であったはず。そこを1年生の流川に託すところに、チームへの思いと新エースへの信頼がうかがえる。「へい」とパスを受けに来た流川の姿を見たとき、三井が嬉しそうな顔をしていたのが印象的なシーンだった。
■流川から三井へ…「そんなタマじゃねーよな」
逆に山王工業高校との試合では、流川から三井への信頼が見える場面がある。
翔陽戦以上にフラフラの三井は、それでもなおシュートを放ち続ける。しかし実際はもうとっくに限界を超え、“腕も上がらない”と自身が言うほどの状態だった。
流川もそれを知っていたはずだが、その後の速攻では自分で決めると見せかけて三井にパスを出す。山王・松本稔は三井の状態を見越して「奴はうてねえ‼」と宣言したが、三井のしぶとさを知る流川は「そんなタマじゃねーよな」と。
事実、三井は土壇場に来てなお、今までよりも美しいシュートを決める。唯我独尊のエースからのパスは、このあきらめの悪い先輩に対するこのうえない信頼の証だろう。
■桜木から赤木へ…キングコング兄弟愛
流川・三井がエースコンビなら、自称“キングコング・弟”の桜木花道と赤木剛憲の関係性は、厳しい兄と反抗的な弟のような兄弟関係に近いだろう。
その二人の信頼が見えたのが、海南大附属高校との試合だ。いつも桜木に厳しい赤木が試合終盤、「O.R.とったら迷わずダンクにいけ‼」「オレが許す‼」と桜木にゴーサインを出すと同時に、“ゴールから遠くてダンクできない場合にはオレに渡すように”と伝え、「オレが決める」と自身の決意を表す。
残り時間10秒を切り、リバウンドを制した桜木。フリースローラインあたりとゴールからと遠かったこともあるのか、「ゴリッ!!」と、躊躇なく赤木に最後のパスを託した……はずが、そのパスは敵チームへ……痛恨のパスミスをして湘北は負ける。
桜木はたまらずコート上で涙した。敗北自体も自分のミスも悔しかったろうが、赤木の夢を思い、彼の信頼に応えることのできなかった涙でもあったろう。