食べて、寝て、また食べて…リラックマの表情に癒される! こま撮りアニメで作られたNetflix『リラックマと遊園地』制作秘話(2)の画像
Netflixシリーズ『リラックマと遊園地』より ©SAN-X CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

国民的人気キャラクター・リラックマのこま撮りアニメーションが、Netflixにて独占配信中。2019年に配信された『リラックマとカオルさん』は、OLカオルさんとリラックマたちの日常生活を丁寧に描き、2022年に配信された第2作目『リラックマと遊園地』は、前シリーズと一変して、リラックマと仲間たちのゆかいな大冒険が描かれる。とにかく癒されるリラックマをこま撮りアニメにしたことで、より一層、リラックマの優しさやあたたかみを感じられる本作は、ぜひこのお正月に観てもらいたい作品だ。
作品の制作を手がけたのは、どーもくんアニメーションなど、キャラクター開発やこま撮りアニメで有名な制作スタジオ・ドワーフ。WEB声優MENでは、今年設立から20周年を迎えるドワーフ スタジオのクリエイター陣に独占インタビューを敢行。こま撮りアニメ制作の裏側を聞いた。

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■カオルさんの人間くさい一面を多部未華子さんに表現していただいた

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今回インタビューに答えてくれた制作スタジオ・ドワーフのクリエイター陣

ーー今回は、具体的な制作についてお聞きしたいのですが、まずは声優についてですが、とくに女性視聴者は、カオルさんに共感しながら観る方が多いと思います。この役を演じてもらった多部未華子さんには、どんな声の演出をされたのでしょうか。
小林監督:リラックマたちを深く愛しているけれど、時にひどい態度を見せてしまったりする実に人間くさいカオルさんの多面性や妄想癖の話をさせていただきました。そこから先は、多部さんのなかで劇中のキャラクター設定を解釈していただき、実際に声を発していただくことで、僕自身にも見えていなかったカオルさんの輪郭がより具体的に立ち現れたという感覚です。ハヤテくんを演じていただいた山田孝之さんや、スズネ役の上田麗奈さんも同じように、ともにキャラクターを作り上げていただいたと思っています。

ーーアニメーション制作で苦労された点はどんなところでしょうか。
小林監督:『リラックマとカオルさん』は、10班が同時に撮影を進行するプロダクションとなりました。同じシーンの切り返しのカットを別ステージで別のアニメーターが撮影するとか、直結するカットを1ヶ月後に撮影するなんてことも常時行われました。小道具や照明の繋がり、芝居のテンションの一貫性、各人形や衣装の取り回しなど、ものすごい複雑なマトリックスを日々整理しながら撮り進める必要があり、そこが最初のシリーズで最も苦しんだ点です。

『リラックマと遊園地』では、その反省を活かし新たなデジタル管理システムを導入するなどして準備から撮影に臨みましたので、前回のような苦労は大幅に軽減されたのですが、コロナ禍の影響でスタッフが集まれない状況が生まれたのが想定外の事態でした。プロダクションを細分化しスタッフ各人が自宅で作業を進められるようにするのにも先に書いたデジタル管理システムが大きく寄与してくれました。さらにこのコロナ禍を経験した世の中に向け作品自体が何を主題にするべきかを考え直したりしました。

ーー前作『リラックマとカオルさん』では、リラックマとカオルさんそれぞれに哀愁を感じ、『リラックマと遊園地』では、前作を踏まえて、リラックマと人間がいる世界観の中での大冒険を描いていました。それぞれに良さがありましたが、ここまでふり幅のある作品を作ろうと思われた理由があれば教えていただけますでしょうか。

松本:グローバルな目線で考えると、キャラクターもの、それもストップモーションの「シリーズ」で「大人向けの作品」を作るのは少々常識外れなことです。これは日本発だったから実現できたことだと思います。『リラックマとカオルさん』では、そのことに挑戦する作品だったと思います。ただ、そのルックの可愛らしさから子供たちも惹きつけ、逆にその大人っぽい物語で少々戸惑ったという声もありました。ですので『遊園地』では、そんなリラックマの可愛さ、面白さに期待をする人にも応えられるよう、カオルさんの煮え切らない悩みはそのまま、新たな登場人物を迎えながら舞台を遊園地へ、と舵を切ってみました。

岡田:『リラックマとカオルさん』の配信で好評を得て第2弾の制作が決まった際に、Netflixさんから、良くも悪くもアジアの大人の女性という具体的な層に強く刺さった『リラックマとカオルさん』の続きをつくるのではなく、より広いターゲットに向けた新たなタイトルを制作してはどうかという提案をいただきました。カオルさんと女性の心の機微を中心にするのではなく、リラックマにいろんな人が出会うことで広がっていく、どの国のファミリーでも楽しめるようなお話作りを目指すことにしました。

ーーこの作品を観ていると、隣に本当にリラックマがいるような気持ちにさせられます。プロデューサーの皆さんが、もしも一緒にリラックマと暮らすことになったら、どんな生活を送ると思われますか。
松本:カオルさんと同じように、ときには邪険にしたりもしつつ、がんばってリラックマの好きな食べ物とか作っちゃうと思います。そんな私の葛藤もリラックマは「じびーーー」って見てるんだろうな……と思います。
伊藤:そうですね、とりあえず柔らかそうなのでビーズクッション代わりにリラックマを枕にして寝てみたいです。
岡田:あまり干渉し合わず、お互い、そこにいてくれるだけでいい同居人として暮らせるのではないかと思います。疲れたりつらいことがあったときは、なんとなくお互いそばに寄り添っている気がします。

 

■総勢200名以上!多くのクリエイターに支えられて作られた、こま撮りアニメーション

Netflix『リラックマと遊園地』撮影の様子
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ーー作品を観ていると、大変な人数や時間がかかっていると想像します。
伊藤:そうですね。たとえば、串から団子ひとつを口にほおばる、という仕草が2~3秒程度だとすると、そのアニメーションを撮影するのに2~3時間程度はかかります。基本的には、ひとつのカットはアニメーターがひとりで人形を動かしてアニメーションをつけますが、その撮影に至るまでには美術スタッフがセットの建て込みや飾り込みをして、そこにカメラマンがカメラを構えてアングルを切り、そして照明部がライティングをしてから、ようやくアニメーターが人形のセッティングに取り掛かることができます。この様に撮影の前の準備段階で数十分から数時間を要することもありますし、ひとつのカットを撮影するためにも、現場のカメラマンやライトマン、美術スタッフらは5~6名ほどが入れ代わり立ち代わり関わることになります。

リラックマの大好物の串だんごはこんなサイズ感!
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ーー美術セットも細かいですね。
伊藤:現実世界のリアリティや生活感も意識しつつ、カオルさんたちが暮らすアパートは建物のパースをあえて崩したり、アニメーションとして、造形物としても魅力的に見えるようデザインされています。カラーリングも同様に視覚的な楽しさ、かわいらしさを感じてもらえると思います。

ーーサイズ感もぜひ知りたいです!
伊藤:アパートのサイズでいうと、リビングでおよそ40×80cmほどでしょうか。リラックマたちが暮らす世界は、現実世界のおよそ4~5分の1のスケールでできています。また、河川敷や公園などの屋外のセットはさらに小さく20分の1で製作されています。リラックマのサイズ感は……内緒です(笑)。

Netflix『リラックマと遊園地』撮影の様子
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ーー約10分のアニメーション1話分をどのように作っているのでしょうか。
伊藤:ざっくりとですが、まずは演出チームがアニメの設計図となる絵コンテを書きます。それで全体の映像の尺、長さや、カット数などが見えてきますし、登場するキャラクター、シチュエーション、美術セットの総数なども見えてきます。次にはそれらキャラクターの人形や、美術セット、小道具などの製作に取り掛かりつつ、アニメーターや演出チームは撮影のための香盤づくりも並行して取り掛かります。

ーー香盤とは何でしょう?
伊藤:香盤は、効率的に撮影するための時間割のようなものですね。コンテ作成から、造形作業、香盤づくりなどは撮影前の準備期間、プリプロダクションと呼ばれますが、そこにはリラックマの制作においては、およそ半年ほどの期間が設けられました。そこまでの準備を整えて、本番の撮影に臨みますが、1話およそ11~13分間の本作の撮影には、アニメーターが8~10人が携わり、およそ2週間で1話分の総量のこま撮りアニメを撮影しています。
アニメの撮影が終わると、その撮影した素材をもって、今度は映像の編集作業、そして音楽をのせたり効果音をのせたり、という作業をして最終的な映像の完成となります。
撮影現場での常時、30~40人程のスタッフが稼働しておりますし、美術や小道具、人形造形、そして最終的な映像編集や音まわりの作業に関わるスタッフなども合わせますと、総勢スタッフは、200名は優に超えています。

ーー多くの方の手がかかっているのですね。さて、ドワーフさんの手がけるこま撮りアニメは、キャラクターの圧倒的なかわいらしさと、表情の細かさが特徴的です。小林監督の、ものづくりのこだわりを教えてください。
小林監督:『リラックマ』の2シリーズに関していうと、従来の日本のこま撮りアニメーションのやり方から逸脱し、映画的なセオリーで撮っています。たとえば、人間の目線で自然な画作りをしようとしてカメラや照明が入るべきところに入ると、アニメーターが動きをつけづらい場所や、セットチェンジを繰り返さないといけないような場所に撮影機材を設置する必要が出てきます。こま撮りのミニチュア世界と同じスケールで撮影・照明機材が存在すればいいのですが、そうではないのがネックです。その問題を回避するために、従来のこま撮りアニメーションでは、やや舞台演劇に近い、正面性のある画作りでお話を紡いできました。ですが、今回はそのやり方から離れ、より人間世界での実存感を画作りに持ち込もうとした訳です。これが実現できたのも、ドワーフとそこに集まるスタッフが、どんな条件下でも素晴らしいパフォーマンスを出せるアニメーションの技術に精通しているからこそだと思っています。

グリーンバックでの撮影現場の様子©SAN-X CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

 

インタビュー第3回は、ドワーフのクリエイター陣による、さらなるものづくりへの情熱をお聞きしました。こちらは明日公開予定!

 

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