■「ショータイム!」記憶を失った街を舞台に世界の核心に迫る『THE ビッグオー』

 スタイリッシュな映像や世界観が魅力の『THE ビッグオー』は、1999年10月から2000年1月にかけてWOWOWで放映されたサンライズ制作のオリジナルロボットアニメだ。記憶を失った街「パラダイムシティ」を舞台に、ネゴシエイター(交渉人)であるロジャー・スミスが巨大ロボ「ビッグオー」でさまざまな事件を解決していく。

 40年前に起きた「何か」によって地球が壊滅的な状態に陥っていたり、人々がそれ以前の記憶(メモリー)を失っていたりと、随所に「終末」を想起させる設定が盛り込まれている。また、作中ではロジャーのモノローグが多く、彼の皮肉っぽくキザな口調もこの世界観にマッチしていた。

 ヒロインであるR・ドロシー・ウェインライトはアンドロイドで表情や話し方にあまり起伏がなく、青白い顔をしている。また、ロジャーをはじめドロシーや執事のノーマン・バーグは揃って黒を基調とする服装のため3人並ぶと真っ黒で、およそロボットアニメの「主人公側」らしからぬビジュアルなのも印象的な作品だった。

 また、ロジャーは交渉人でありながら面倒ごとを解決するためビッグオーによる「力」を用いたり、ドロシーを囮にして「あなたって最低だわ」と非難されたりと、既存のヒーロー像とは遠く離れた人物でもある。

 だが、正体不明の美女エンジェルの登場やアンドロイドであるドロシーとの関係性の変化、さらにこの世界にまつわる「謎」を解く中で、彼の人間性が次々に引き出されるのも本作の魅力であろう。


 今回紹介した1999年に放映されたアニメ3作品は、いずれも違ったテイストでありながらも、どこか「世紀末」に漂う空気感の中からでなければ生まれなかったであろうということを思わせるものだった。これ以外にも1999年には、『無限のリヴァイアス』『今、そこにいる僕』『鋼鉄天使くるみ』など、負けず劣らず強い印象を残した作品がいくつも放映されていた。

 誰もが大なり小なり漠然とした不安を感じていた時代にあって、こうしたアニメの存在が現実へのクッションとなり、私たちの心に余裕を生み出してくれたとも言えるのではないだろうか。そう考えると、先行きが不透明で不穏な未来を予感させる現代にも、同じように時代に寄り添った雰囲気をまとった作品が生まれてくるのかもしれない。何年か経ってそれを振り返って考えてみるのもまた面白そうだ。

  1. 1
  2. 2
  3. 3