■ヒゲのガンダムも衝撃的だった『∀ガンダム』
『機動戦士ガンダム』誕生20周年記念作品である『∀ガンダム』は、富野由悠季氏が『ガンダム』シリーズでは『機動戦士Vガンダム』以来5年ぶりとなる総監督を務め、1999年4月から2000年4月に放映されたロボットアニメ。
月に住む民(ムーンレィス)である少年ロラン・セアックが、地球帰還の先遣調査員として地球へ降下し、偶然乗り込んだ「ホワイトドール(∀ガンダム)」のパイロットとなって戦う物語。本作はどこか牧歌的な雰囲気があり、人々の心情やのどかな暮らしが丁寧に描かれている。ところが、そんな彼らも「発掘兵器」によって苛烈な戦いを繰り広げているのだ。
劇中で登場する地球の文明は20世紀初頭くらいのレベルでしかなく、工業技術などは過去の「オーバーテクノロジー」の遺産を使用している。そんな世界でどうして「ターンA」などのモビルスーツが存在するのか? それには「黒歴史」と呼ばれる地球の過去が関係しているのだ。
かつての人類が戦争を繰り返した結果、地球は壊滅的な打撃を受けてしまう。そのため「アーマゲドン(最終戦争)」の際に「ターンA」が「月光蝶システム」を発動させ、地球上のあらゆる人工物を分解して砂へと変え、全ての文明を崩壊させてしまった。人々は、そのまま地球にとどまる者と、月へと移住する者とに分かれ、前者は破滅的な戦争に使用された兵器ごと過去の記憶を「黒歴史」として封印してしまった。
こうした戦争には過去の『ガンダム』シリーズも含まれており、モビルスーツ「ボルジャーノン(ザク)」や陸戦艇「ギャロップ」などは地面に埋まっていたため分解と消失を免れ、後年の人々に「発掘兵器」として利用されていたのだ。
人類が築いた文明がリセットされていた『∀ガンダム』の作中での地球は、ある意味、一度は終末を迎えながら、それでもなおそこで生きることを選択した人々が再建する途上にある世界だとも言えるだろう。