■恋人が襲ってくる…イヤ〜な展開
次は、花沢健吾氏による『アイアムアヒーロー』(小学館)。1巻序盤は漫画家の卵である主人公・鈴木英雄の日常生活が描かれるが、次第に謎の感染症がはびこり始める。
そして同作で読者に強烈なインパクトを与えたのが、第11話で英雄が恋人・黒川徹子のアパートを尋ねるシーンで描かれた、4連続の見開きページ。ページをめくると徹子がすでに「ZQN」と呼ばれる感染者になっていて、ドアの覗き穴の奥から画面こちらに向かってくるように襲いかかってくる。
身体中の血管が浮き出て目の焦点も合っていない恋人が、突然ゾンビのようになってありえない速さで襲ってくる恐怖を、英雄目線で描いているこの見開きページ。もし自分が同じ状況にいたらと想像するだけでもゾクっとする。花沢氏の新作が「マンガ家マンガ」と思い込んでいた読者はこの突然の展開に度肝を抜かれたはず。
なお、「仲の良い人が襲ってくる」「絶対生き残ると思われたヒロインが、物語序盤で突然見開きページで死ぬ」などといった展開は、デスゲーム系の漫画ではよくある手法。グロテスクなシーンも多いので、心臓が弱い人は要注意だ。
竜騎士07氏脚本のゲーム原作で、鈴羅木かりん氏の作画によってコミカライズされた漫画『ひぐらしのなく頃に 鬼隠し編』(スクウェア・エニックス)も読者をビビらせた作品だ。同作は昔ながらの村社会のしきたりや風習を残す田舎の村で発生した連続怪死失踪事件の謎に迫るミステリー作品。
1巻では都会から引っ越してきた前原圭一がクラスメイトたちと仲良くなるところから話が進んでいくが、途中、周囲で起こることを不審に思った圭一がとっさにごまかしたことに対して、それまでいつもニコニコしていたヒロインの竜宮レナが「嘘だッ!!」と険しい顔で豹変、彼を糾弾する。
この有名すぎるシーンが漫画ではカラーの見開きで描かれており、それまでいつも優しく常にそばにいてくれたレナの変わりように読者の誰もが慄いたことだろう。またレナは作品を象徴するようなヒロインの一人であり、『ひぐらし』には全編を通してこのような怖いシーンが随所にある。
今回は怖い見開きページばかりを紹介したが、漫画にはこうした見開きを利用して物語が最も盛り上がる胸が熱くなる展開が作られていることも多い。作者は全体のページ数から読者の心が一番盛り上がるように推考に推考を重ねているのだろう。電子書籍が主流になりつつある今だからこそ、あえてたまには紙で漫画を読んでみるのもいいだろう。