■『王家の紋章』過去のエジプトにタイムスリップした少女をめぐり周辺国の思惑が交差する長編漫画

 最後に紹介する細川智栄子あんど芙~みんによる『王家の紋章』は、1976年より『月刊プリンセス』で連載スタートし現在も続く長編漫画だ。

 エジプトに留学していた少女キャロル・リードが、アイシスの呪いで古代エジプトにタイムスリップしてしまう。金髪碧眼に白い肌をしたキャロルは当時のエジプトでは珍しく、その美しい姿や現代の知識などに「ナイルの娘」として崇められるようになる。

 同作では古代エジプトで暮らす人々の暮らしや、壮大なピラミッド建築やミイラの作り方などが詳しく描かれている。また、現代の知識を持つキャロルは汚れた水をろ過したり皆既日食を予言するなど、古代エジプト人には奇跡としか思えないことを成し遂げてしまうエピソードは、今はやりのチート能力や異世界転生ものを思い浮かべる読者もいるだろう。

 後にキャロルは当代のエジプト王・メンフィスと愛し合うようになるが、古代ヒッタイト王国のイズミル王子をはじめとした周辺国が利用価値の高い「ナイルの娘」を手に入れようと躍起になる。

 時代や立場など、さまざまな障害を乗り越えメンフィスと結ばれたキャロルだが、誘拐されたり現代に戻ったりなどハラハラする展開に多くの読者がのめり込んだ作品だ。

 ちなみに、前述したヒッタイト王国側の視点で描かれたのが篠原千絵氏の『天は赤い河のほとり』で、こちらは日本の中学生・鈴木夕梨(ユーリ)が紀元前14世紀のヒッタイト帝国にタイムスリップする。時代のズレが多少あるものの、両作を読むことでさらに古代文明が楽しくなるだろう。

 最近では少女漫画を読む男性も増えたというが、今回紹介した作品は40年以上も前の作品で、当時はまだ「少女漫画は女性が読むもの」と思われていた時代。だが、その多くが物語性にすぐれ、読んでいるうちに知識までも身につけることができる名作ばかりだ。作者たちが膨大な資料を基に描きあげたこれらの作品を、歴史の入り口や副読本として活用してみてはいかがだろうか。

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