■『あさきゆめみし』複雑な人間関係や登場人物を物語の中で整理してくれた名作

 学校で習う古典文学は、今とは違った言い回しや単語などにより少し苦手に感じた人がいたかもしれない。そんな古典文学の最高峰とも称される「源氏物語」を漫画にしたのが、『はいからさんが通る』などで知られる少女漫画家・大和和紀氏の『あさきゆめみし』だ。

 高位貴族の主人公・源氏は、その美しさと賢さからか「光る君」などと呼ばれていた(※光源氏は通称)。本来なら次代の帝候補である彼だったが、臣下に降下され「源氏」を名乗ることになる。亡き母の面影を求めるなどの理由で源氏は多くの女性と関係を持つようになっていく。

 筆者は中学の頃に授業で「桐壺」や「若紫」などを習ったが、原文だけでは源氏のお母さんである更衣(桐壺更衣)と帝の女御(弘徽殿女御)がぐちゃぐちゃになったし、「若紫」で登場する「犬君」をクラスメイトは「雀を逃がした子犬です」と答えて爆笑を買っていた。その後『あさきゆめみし』を図書館で見つけ、もっと早くに読んでいればと後悔したほどだ。

 前述でも触れたが、光源氏が関係を持った女性の数は多く、死別を含めて妻なら3人、妾以外に一夜だけの相手もざらにいる。さらに、彼女たちの名前が肩書や愛称などのために覚えづらく、頭の中で相関図を築こうとしても誰が誰だか分からなくなってしまう恐れがあった。

 こうした問題を大和氏が描く美しいキャラクターが解決し、漫画という手段を用いることで複雑な人間関係も理解しやすくなっている。また、原作の恋愛部分や人々の想いを大和氏なりの解釈で掘り下げているため、「少女漫画」や「恋愛漫画」としても楽しめるのがうれしい作品だ。

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