■純粋さのなかに見える幼児性

 経験を重ねながら徐々に大人になっていったアムロとは対照的に、シャアは早くから成熟していた。ザビ家への復讐を果たし、人類を次のステージに導くという高い理想と信念を貫き続けている。

 そこに魅力を感じる人も多いだろうが、あえて意地悪な見方をすれば、それは柔軟性に欠けるということでもある。振り返ってみると、シャアはかなり早い段階で“アースノイドかスペースノイドか”といった二元論的な考え方をしていた。有能すぎて物事の先が見えてしまうぶん、どうしても自分の考えに固執してしまい、視野が狭くなっていたのだろう。

 そうやって万能の秀才が万能感を拗らせに拗らせた結末が、“もういっそ地球にコロニー落として全部ぶっ壊しちゃおう!”という、実に短絡的な方法をとることである。表向き大義名分を謳ってはいるが、要は、子どもがうまくいかないときに癇癪を起こして物を壊す現象と同じだ。それを恋人のナナイ・ミゲルや部下のギュネイ・ガスに見透かされているというのが、またダサい。

 ララァやミライがシャアを「純粋」と評したように、たしかにシャアは純粋なのだろう。だから純粋に自分の理想を、ひいてはスペースノイドに明るい未来が来ることを信じていた。しかし、ただ純粋に母の愛を求め、それゆえにララァの死を乗り越えられなかったところを見ると、純粋さの陰に抜け切らない幼児性を感じずにはいられない。

■あえて言おう!結局はイケメンであると!

 パイロットの才能ではアムロに負け、部下にはロリコンと揶揄されて、実際にはロリコンというよりマザコンを拗らせて自滅したシャア。じゃあいったい何だったらアムロに勝てるのか?

 ……それは、顔と身長と家柄である。顔は見てのとおり。身長は公式データによるとアムロは168センチ、シャアは当初175センチだが『機動戦士Zガンダム』以降は180センチとなっている。家柄もジオン公国創始者の息子と、申し分ない。

 ここでいきなり生々しいデータを出すが、2021年の「第16回出生動向基本調査」によると、結婚相手に求める条件に関する調査で、相手の「容姿」を「重視する」あるいは「考慮する」と答えた女性は、1992年以降で過去最高の81.3%に上っている。同じ項目で男性は81.2%とわずかながら女性を下回っているが、つまり現代世界の男女は、概ね“美男美女”を求める傾向にあるということだろう。

 拗らせた幼児的万能感も、イケメンにかかれば「純粋すぎる人」になる。それが有能で育ちの良いイケメンならなおのこと良い。“彼の苦悩や弱い部分を支えてあげたい!”と思う女性もいるだろう。もちろん、シャアの絶大な人気を“イケメンだから”の一言で片付ける気はないが、一見完璧のように見えて内に抱えた葛藤に苦悩する姿が一段と魅力的に映る要因として、やはり容姿の影響はそれなりに大きいのではないかと思う。

 ちなみに先に挙げたデータでは、女性が結婚相手に求める条件で最も高いのは「人柄」(98.0%)、次点で「家事・育児の能力や姿勢」(96.5%)である。この点はシャアにはあまり望めないから、結婚相手として見たときは、シャアよりもアムロのほうが魅力的に映るのではないだろうか。

 

 ここまでさんざんアムロとシャアについてまとめてきて、最終的な結論は結局「イケメン」という身も蓋もないものになってしまった。とはいえ、ネット上ではたまにシャア嫌いの女性を見かけるし、そもそもシャアの容姿が好きではないという人もいる。男性のなかにも、ミライが好きな人もいればセイラ派、マチルダ派の人もいるし、結局人の好みは十人十色ということだ。

 それこそ人類全員がニュータイプにでもならなければ、性差による捉え方や個人的な好みの違いにかんしては、永遠に分かり合えることはないのかもしれない。

■番組情報
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
毎週日曜 17時より放送(TBS系)
公式サイト:https://g-witch.net/

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