■『MW』美貌のエリート銀行員が凶悪な知能犯へと陥った理由は?
次に紹介する『MW(ムウ)』は1976年から『ビッグコミック』で連載された作品。エリート銀行員の結城美知夫が、神父である賀来巌を巻き込みながら凶悪な事件を犯し続けるクライム・サスペンスだ。
歌舞伎の家に双子の弟として生まれた結城は、子どものころに訪れた沖ノ真船島で、秘密化学兵器の毒ガス「MW」が漏れて島民が全滅する惨劇を目のあたりにする。結城自身も毒ガスに脳や心臓を冒されたことで死期が近く、事件の関係者を探し出し次々に情け容赦のない復讐を果たす。そして、結城は「MW」を手に入れることで、とてつもない犯罪を企てるのだが…。
結城は犯罪を重ねるたびに賀来へ「懺悔」するのだが、二人には共犯以上の深い関りがあった。少年時代の賀来は不良グループの一員で、結城が沖ノ真船島に訪れた際に「女の子みたいにかわゆい」と言って無理やり肉体関係を持ってしまう。「MW」による惨劇以前に、幼い結城は賀来から性的トラウマを植えつけられていたのである。
自身の凶悪犯罪を遂行するため、結城は情を交わした女性も躊躇なく殺す。読んでいて「この女性はさすがに」と思えるキャラクターさえ情け容赦なくいたぶる。殺した相手の姿を借りて女装し、犯罪を続ける結城に対し筆者は女性への「憎悪」ではないかとさえ感じた。それは、その後も続く賀来と関係に「執着」が見え隠れするうえ、非情な犯罪者である結城が彼の死に涙したからである。
ラストで結城の双子の兄が意味ありげに微笑み、それに気づく女性の様子が読者の心に恐怖の種火を残したのではないだろうか。