■衝撃展開を見据えて…計算されたタイトルだった『タッチ』
1981年より『週刊少年サンデー』(小学館)にて連載された野球漫画『タッチ』は、連載直後から瞬く間に人気を博した。なかでも主人公・上杉達也の双子の弟である和也が死ぬという展開は、多くの読者、視聴者に衝撃を与え、今もなお語り継がれている。
作者であるあだち充氏は『月刊少年サンデー』でのインタビュー内で、この『タッチ』というタイトルの由来について語っているのだが、その意外な秘密にファンは驚くこととなる。
この「和也が死ぬ」という衝撃のシーンは、実は『タッチ』を連載する前から決定していたというのだ。“もう一人の主人公”ともいえる和也は死んでしまうのだが、ヒロイン・浅倉南の夢を叶えるため、甲子園を目指す役割を達也に「バトンタッチさせる」ことから、タイトルを『タッチ』としていたということなのである。
また、このインタビューではもうひとつの秘話も明かされている。当時、和也はキャラクター人気も高かったため、担当編集者からたびたび「死なせないで」と釘を刺されていた。そのため、あだち氏は和也が死亡する展開を書き切り、原稿を置いて行方をくらましたそうなのだ。
アニメの主題歌にすら使われる『タッチ』というフレーズに秘められたこのストーリー。ファンにとっては非常に衝撃的な誕生秘話だろう。
漫画のネーミングの裏話を覗いてみると、そこに秘められた意図は実にさまざまで、驚いてしまうものだ。最初から展開を練り込んだことによる計算から、ときには偶然目にした物をヒントにした直観から……ネーミングに込められた思いは実に多彩で、作者の個性が光るエピソードばかりである。
一度読み終えた漫画でも、こういった「名前の誕生秘話」などに目を向けると、またいつもとは違った発見があるかもしれない。