『幽☆遊☆白書』の“ラーメン回”や『チェンソーマン』の“早川家”など…バトル漫画で一息つける“日常回のほんわかエピソード”3選の画像
『呪術廻戦』Vol.1 Blu-ray 初回生産限定版(東宝)

 息つく間もない激しいバトルに、キャラクターたちの人間離れした身体能力と強靭な精神力、そして特別な能力。バトル漫画の醍醐味は、当然ながら身を焦がすような熱いバトルシーンであり、戦うキャラクターのカッコ良い姿だろう。

 その一方で、『鬼滅の刃』のようにバトルの間に見られる日常回も読者にとっては楽しみの一つになっている。憧れのキャラクターが戦いから離れたときの姿を見れば、新たな一面を知ることができるし、自分と同じ“人間”として身近に感じることもできるからだ。

 バトルシーンがキャラクターたちの“オン”の状態だとすると、日常シーンは貴重な“オフ”のシーン。そのギャップを作者がどう描くかというのも、また興味深い。そんなオン・オフのギャップと作者の感性が楽しめる、バトル漫画のほんわかエピソードを紹介する。

■もしかしてそれプロポーズ?『幽☆遊☆白書』の“ラーメン回”

 まずは冨樫義博氏の『幽☆遊☆白書』から。主人公・浦飯幽助が仲間たちとともに戦いながら強くなっていく、言わずと知れたバトル漫画の超人気作品だ。

 本作ではバトルの間に、幽助と幼馴染の雪村螢子とのエピソードが入ることが多い。定番は、幽助がスカートめくりなどの幼稚なイタズラを螢子にし、ビンタを食らうといったものだ。しかし物語の終盤では、そのパターンに少し変化が表れる。

 魔界の王を決めるトーナメント戦に敗れ、1年半ぶりに人間界に帰ってきた幽助は、屋台のラーメン屋店主になっていた。そこに客として訪れた螢子。ラーメンを食べて「そーいえば幽助の作るモノ初めて食べた」と言うと、幽助は「こんなもんでよけりゃ毎日作ってやるぜ」と答える。取りようによってはプロポーズにも聞こえるこの発言に、螢子は思わず顔を赤らめるのだが、しかし当の幽助は何の考えもなしに言っただけなので、なぜ螢子の顔が赤いのか意味がわからない。

 ちょっと落ち着いた雰囲気に変わってきた二人の関係と、変わらないままの幽助の単純さにグッとくる、温かいエピソードだ。魔界の王からラーメン屋というギャップには驚かされるが、いつもいろんな意味で読者を翻弄する作者らしい結末ではないだろうか。

■寄せ集めのデコボコ家族『チェンソーマン』の“早川家”

 続いて、現在アニメが話題になっている、藤本タツキ氏の『チェンソーマン』。「チェンソーの悪魔」に変身することのできる主人公・デンジが、公安の「デビルハンター」として活躍する物語だ。

 チェンソーからホラー映画を連想する人もいるだろうが、実際に作者は映画『悪魔のいけにえ』からもっとも影響を受けたと「毎日インタビュー」で語っていた。それもあってか、バトルシーンでは凄惨な描写が目立つのだが、対照的に日常シーンは賑やかで明るい。映画好きの作者に乗せられて、スプラッターホラーとホームコメディ、二本の映画を同時に見ているかのようだ。

 本作の日常シーンでは「早川家」と呼ばれる三人――デンジ、デンジのバディで「血の魔人(魔人=人間の死体を乗っ取った悪魔)」パワー、二人の指導役のデビルハンター・早川アキ――の共同生活がおもに描かれている。

 デンジは幼いころに親を亡くし、学校にも行かずにヤクザの下で働いてきた。そのため、まともな教養や生活能力が身についていない。食事をすればテーブルを汚しまくる、風呂に入れば長い、トイレに入ればそのまま寝る、といった有様だ。パワーに至ってはさらにひどく、野菜は嫌いだといってカレーの人参を投げ捨てる、風呂は入らない、トイレは流さない……。そして、真面目で几帳面な性格のアキ。

 そんなデコボコの寄せ集め集団から始まった早川家だが、回を重ねるごとに、デンジが掃除をするようになり、三人そろってリビングで寝落ちするようになり……と、短い日常回を通して三人の成長や関係性の変化が丁寧に描かれている。

 ただ、この温かさから一転、ラストに向けて一気に落としてくるので、最後まで決して気を抜いてはいけない。

  1. 1
  2. 2