■あのトップアスリートと同じ⁉『ザ・ファブル』佐藤明

 相手の動きや戦いに集中するあまりゾーンに入る『バガボンド』『キングダム』に対して、『ザ・ファブル』では故意にゾーンに入る方法を用いている。殺しの天才でありながら、1年間誰も殺さず一般人として生活することを命じられた殺し屋「ファブル」こと佐藤明(偽名)。

 普段はちょっと変わり者の青年として過ごしているが、指で額をトントンと数回叩けば、一瞬で”最弱の一般人”から”殺しの天才”にモードを切り替えることができる。また、トントンすることで標準語から大阪弁になるなど、言語の切り替えも可能だ。

 ファブルとよく似た手法を、実は日本のトップアスリートたちも用いているようだ。たとえばラグビー日本代表の五郎丸歩選手はキック前に、あの有名な「五郎丸ポーズ」を含めたいくつかのルーティンに集中することで、周りの音が一切聞こえなくなるほどの集中状態に入ることができるという。それこそまさに、自ら故意にゾーンに入っているのだろう。

 このファブルの”頭トントン”も、集中前に見られるルーティンのようなものなので、これと同じ原理だと推測できる。ただファブルの残念な点は、“額トントン”となんとも気の抜けた“変顔”がセットになっていることだろう。カッコいいというよりは、むしろどこかマヌケな印象すら与える。とはいえ、このヌケ感がまた個性的で、ファブルの魅力でもあるのだが。

 

「ゾーンに入る」というと、なんとなくカッコ良く、その未知の境地に憧れてしまうが、「ヨダレも白目も変顔もちょっとなぁ……」と思う人もいるだろう。ただ、これらはあくまで個性的なゾーンの描かれ方なので、漫画の登場人物たちのように自分なりのカッコ良いゾーンの入り方を地道に見つけてみても良いかもしれない。

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