■『鋼の錬金術師』リン・ヤオ
次は荒川弘氏による『鋼の錬金術師』に登場するリン・ヤオだ。リン・ヤオはシン国の第十二皇子で、賢者の石を求めて旅をしている最中にエドワードたちと出会うことになる。リンは強制的に二つの人格を持つようになってしまった珍しいキャラ。またキワモノが多い二重人格キャラの中で、非常に感動的な名シーンを生んだ人物でもあった。
その原因は、黒幕である“お父様”によって、欠員の出たホムンクルスの穴を埋めるために、「強欲」グリードを強制的に肉体へ注ぎ込まれたから。普通の人間はグリードの支配に耐えられずに肉体を明け渡してしまうが、リンは強い精神力によってグリードの支配を抑え、共存の道を歩むことになったのだ。
グリードはリンの中で一緒に過ごしながら旅を続けるうちに、人間が羨ましいと感じるようになる。そして訪れた“お父様”との最終決戦。力を消耗した“お父様”がグリードの力を自らの肉体に取り戻そうとすると、リンはグリードを必死に引き止めた。
これにはグリードも驚き、自分のことを相棒と話してくれるリンを気遣って、自分から“お父様”に取り込まれることにした。生みの親である”お父様”に「遅めの反抗期だよ親父殿!」と反旗を翻すと、肉体をわざともろい炭に変えたのだ。グリードが消える間際に口にした「ああもう十分だ なんも要らねぇや がっはっは…じゃあな 魂の…友よ」というセリフは同作屈指の名セリフではないだろうか。
二重人格と一口に言っても、抑え込まれていたものを吐き出そうとする心の具現化だったり、全く違う存在が体に入り込んだりと理由はさまざまだ。ギャグやラブコメ、そしてスポーツにバトル漫画など、“暴走”してしまうキワモノ的扱いをされがちな二重人格キャラだが、1つの体に2つの人格が宿る珍しい特性によって、他のキャラにはない感動を我々に与えてくれる。