ガンダムシリーズでは登場人物が酒のグラスを傾けるシーンがたびたび描かれる。それは、覚悟を決めるためだったり、過去を振り返るきっかけだったり、さまざまな理由による。
さて、11月17日といえばシャア・アズナブルの誕生日。今回は、シリーズ屈指の人気を誇るシャアが見せたカッコいいシーンの中でも、特に印象に残った名シーンを3つ紹介させていただく。
■ガンダムファンに語り継がれる「坊やだからさ」
シャアの裏切りでホワイトベース隊の攻撃を受け、20歳の若さで死亡したザビ家の末弟ガルマ・ザビ。盛大に執り行われる国葬を酒場のテレビで視聴していたシャアは、ガルマの兄ギレン・ザビが「諸君らが愛してくれたガルマは死んだ! なぜだ!?」と国民に語りかけると、こうつぶやいた。「坊やだからさ」——。
ガンダムファンなら知らない人はいない名セリフである。騙した相手を馬鹿にするような口調でもなく、「坊や」という親しみをも感じさせる言葉を使ったところに、複雑な背景を抱えたシャア・アズナブルというキャラの奥深さが感じられる。
騒がしい酒場の雰囲気にいながら、白いスーツ姿で静かにグラスを傾けるシャアの佇まいが非常に決まっていた。
この時、シャアはどんな酒を飲んでいたのか、アニメでははっきりとは描かれていなかったが、コミック『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では、ラベルと酒の色から「LA MAUNY(ラ・マニー)1749」というダークラムを飲んでいると推測できる。
クセが強めなダークラムを嗜むのは、酒の味がわかっている証拠。そんな雰囲気をガルマと同じ20歳で醸していたシャアは、やはりカッコよすぎる大人の男性だった。
■ダカール演説後に見せたアムロとの“奇跡の乾杯”
シャアを語る上で忘れてはならない大事なシーンが、『機動戦士Zガンダム』で実現した宿敵アムロ・レイとの乾杯シーンだ。
エゥーゴは、地球連邦政府議会が行われているダカールでクワトロ・バジーナを演説させるため、カラバと協力してティターンズの攻撃を退ける。クワトロは自身の正体がシャア・アズナブルであることを明かし、世界に向けて訴えた。思い出すだけで熱くなる名シーンである。
MSディジェに乗り込む前のアムロが、「あなたに舞台が回ってきただけさ。シナリオを書き換えたわけじゃない」とシャアを認める発言をするのもグッとくる。
シャアの演説は無事に成功。ティターンズは議会を攻撃したことで民衆からの支持を失い、エゥーゴとカラバはこれまでになく盛り上がっていた。
そんな場から離れ、一人佇むシャアの元に訪れたのがアムロだった。盛り上がっていることを告げるアムロに対し、「しかしな、これで私は自由を失った」と少し弱気な一面を見せたシャア。ライバルを信頼している証のように感じる。
「人身御供の家系かもな」と乾杯を求めるアムロに対し、少しだけ笑いながら応じたシャア。これまでのことを思い浮かべながら2人がグラスを傾けるシーンは胸に来るものがあった。
シャアとアムロが最も歩み寄ったと言えるこのシーンは、言葉だけでは語り切れない二人の想いやこれまでの出来事の重みを感じる。
英雄とも呼べる2人が廊下でひっそりと杯を交わす。震えるほどカッコいいシーンだった。