■衝撃だった「おまえは才賀勝では、ない」
藤田和日郎氏の漫画『からくりサーカス』の才賀勝もまた、最悪なものを眠らせていた主人公のひとりだろう。
彼ははじめ気弱で、どんどん成長していく姿を応援したくなるキャラだが、物語中盤に彼の出生の秘密が明らかになる。
それは彼が軽井沢の屋敷で知った衝撃の事実で、実は勝は、才賀貞義ことラスボスであるフェイスレスの計画のために用意された器であり、彼の中にはフェイスレスの知識・記憶・人格がダウンロードされていた。完全なダウンロードは阻止されたものの一部の記憶は時おり顔を出してしまう。
「おまえは才賀勝では、ない」というショッキングな大コマから幕を開けるそこからの過去追想エピソードは涙なくして読めないものばかり。そしてクライマックスに向けてすべての歯車が噛み合うように動き出す展開に、鳥肌を立てながらページを読み進めたというファンは多いのではないだろうか。
2022年10月より10年ぶりにシリーズ最終章となる「千年血戦篇」のアニメがスタートした久保帯人氏の『BLEACH』主人公の黒崎一護も、自身の精神世界に内なる虚(ホロウ)が存在する。この内なる虚は一護と色が反転したような、白目が黒く舌が青い見た目をしており、見た目も性格も一護とは正反対だ。
次から次へと新しい設定を盛り込む久保氏の手腕は「千年血戦篇」でも遺憾なく発揮される。令和の世に再び舞い戻ったアニメ『BLEACH』の世界を楽しみたい。
最後は、こちらもアニメが絶賛放送中の藤本タツキ氏の『チェンソーマン』。主人公のデンジは、チェンソーの悪魔であるポチタと一緒に暮らし、デビルハンターとして借金を返す日々を送っていた。
しかしある日、デンジは人にだまされ、ポチタとともに悪魔に殺されてしまう。このときポチタが自らの命を犠牲にしてデンジを助けたため、2人は一体の存在となり、一瞬で敵を蹴散らした。チェンソーマンの誕生というわけだ。
結果、この出来事により、デンジの身にはさらにさまざまな宿命が襲いかかることとなってしまうのだが……。ただ、ポチタはこれまで紹介したどの「ヤバいやつ」よりも良心的な存在かもしれない。
あらためて見てみると、少年漫画の主人公の内に存在するものは誰も彼も「かなりヤバい」ということが分かるだろう。どの作品も、主人公と、一筋縄ではいかない「ヤバいやつ」の2人による、同じ体を巡る駆け引きも見ものだ。